◆◆ チームワーク (New Year SS☆2018) ◆◆ | ||
「今年一年を振り返ってのミーティングなんて・・・何年ぶりかしらね?」 ミネルバのリビングルーム。 ソファに腰かけた4人に紅茶をサーブしながら、アルフィンが言った。 「そうだな。この時期に仕事じゃない方が珍しいからな」 アルフィンの隣、チームリーダーのジョウはそう言ってから紅茶のカップに口をつけた。 「去年はシャグナの太陽系国家連盟年越イベントの護衛でしたからね。あの女性総裁は美人でしたなぁ」 一番端に座っているタロスがその巨体をソファの背もたれにゆっくりともたせかけながら言った。 「やーねぇ、タロスったら鼻の下延ばしちゃって」 「あのイベント、有名なミュージシャンとかも来てて、おいら的にも美味しい仕事だったなぁ」 タロスの左隣、小柄なリッキーが頬杖をついて、その仕事を想い出した。 「ああ、リックのギターがナマで聴けてサイコーだったな」 ジョウがめずらしくリッキーに同意した。 「あれ?仕事バカの兄貴も護衛中なのに聴いてたワケ?」 「耳に入ってきただけさ。意識は美人総裁に集中してる」 「ちょっと、なんなの!?さっきから美人、美人って!」 アルフィンが二人の会話に割って入った。柳眉が険しく逆立つ。 「いや…タロスがそう云ったから、つい」 ジョウがしどろもどろに弁解した。 「まあまあ、アルフィンもそんなとこに引っかかってないで、今年の反省会とやらをやりましょうや」 タロスが二人を取りなす。 「おいら今年も反省することばっかりだったなー」 リッキーが大袈裟に頭を抱えてみせた。 「そんなこと云わんでも皆知ってるぜ」 すかさずタロスが、つっこむ。 「なんだよ!おいらがめずらしく、真面目にコメントしてるってのに」 「おめェはいつだって、詰めが甘いんだよ。もちっと頭使え、頭を」 「おっと!最近、物忘れMAXのご老人に云われたかないね!」 タロスが思わず、ソファから腰を浮かせた。 「なんだとぅ!?」 「やんのかよ!?」 リッキーも身体を開いてソファに飛び乗った。 「あんたたち、いい加減にしなさい!」 いつもの甲高いアルフィンの叫びに圧倒されて、二人はしぶしぶ腰を下ろした。 「ほんと…お前たちも成長しないなァ」 ジョウがやれやれ、といった感じで眉間に置いていた手を戻し、気を取り直して話はじめた。 「今日のミーティングは、もちろん一年を振り返って…の趣旨だが。今回、反省会ってのはやめようと思う」 「へ?」三人が一斉にチームリーダの方を見る。 「もちろん、仕事の見返しは重要だ。失敗・失策は原因を追究して次に生かす必要がある」 ゆっくりチームメイトの顔を見回しながら、ジョウは言葉を続けた。 「だが…今回のミーティングは、今年一年の仕事で良くやったこと、上手くいったことを挙げてゆく」 「へえー」 「ほお」 リッキーとタロスがそろって声をあげた。 「それってサクセスの振り返り、ってやつね!」 アルフィンだけ、したり顔で頷く。 「そうだ。コーチングでは定番だが、上手くいったこと、良くやったことを振り返り、認識することにより、次のサクセスへのセルフイメージへ繋げてゆく」 ジョウも頷き返した。 「自分のことでもいいし、誰のサクセスでもいい。ここは派手にピックアップして称賛しようぜ」 「お互いにイイとこ挙げて、褒め合いってワケね?」 「えーなんだか、こそばゆいなーそれ」 リッキーが両頬に手を当てて、身をよじらせた。 「おめぇ、褒められることしたって思ってンのか?」 「なんだよ、その言い草!」 相棒のいつものからかいにリッキーが歯を剥き出した。 「タロス!」ジョウとアルフィンの声が重なる。 「へぇ…すんません。つい、いつもの癖で」 タロスが恐縮して頭を掻いた。 「じゃあ、俺からいくか」 場の雰囲気が収まったのを見計らって、ジョウが切り出した。 「コートニー事件でのリッキーの活躍が良かったと思う。あそこでおまえが機転を利かせてマンホールに飛び込んだお蔭で、重要な証拠を逃さずにすんだ」 「え、おいら?」 まさか自分がトップバッターだとは思わなかったリッキーが、自分を指さして顔を上げた。 「そうよ!あの証拠があったから、コートニーに辿り着いて、無事事件解決できたんだから」 「え、えへへ」 リッキーが照れて頭を掻いた。 「おめェのその、すばしっこさとチビなのが、役に立った一件だったな」 タロスも腕組みをしながら、同意した。 「……どーも、タロスには褒められてる感じがしないなァ」 リッキーが不満そうに呟く。 「タロスにしては最大限、褒めてるぜ」 ジョウが笑って言った。 「じゃあ、あたしも」 アルフィンが身を乗り出して話し始めた。 「タロスがその…美人総裁の護衛の時、秘書の失敗をフォローしてあげたじゃない?あれって、さりげなく且つ自然で…そのお蔭で結局、公にもならずに事が済んで、問題も起きなかった。あのフォローは素晴らしかったわ」 「そんなことあったのか?」 ジョウが驚いた様子でタロスを見た。 「いや…そんな大したことじゃないですよ」 タロスが両手を振って謙遜した。 「おいらも知ってるよ。あの秘書、顔面蒼白で倒れそうだったんだぜ!」 「おめーちと、大袈裟だぜ」 「おい、タロス。ここは素直に称賛を受け取るとこだぜ」 ジョウが面白そうに言った。 「へ、へえ。なんかこう…調子狂いますぜ」 タロスは困ったように太い首の後ろに手をやり、かぶりを振った。 「素直じゃないわねぇ」 アルフィンとリッキーがお互いに目を見合せて笑った。 「おいらも思い出したよ!」リッキーがぱちん、と指を鳴らして話し始めた。 「アルフィン、毎度の食事の献立、おいら達のヘルスチェックの結果を見ながら作成してんだよね」 「何よ…それ、仕事のことじゃないじゃない」 アルフィンが不満げに口を尖らせた。 「料理だって重要な仕事だろ?おいら達の健康を管理して、そのお蔭で元気に仕事が出来てるんだぜ」 「そりゃそうだ」 リッキーの言葉にタロスが頷いた。 「おいら達の好みとか、苦手なもの、そして料理や健康に関するニュースもいち早くチェックしてメニューに反映させてるだろ?あと、クラッシュパックに入れてる携行食料もニューフレーバー、サーチして代えてくれてるのも、知ってるぜ」 「そうなのか?」 ジョウが驚いて傍らのアルフィンを見る。 「そ、そりゃあ…料理担当としては当然のことよ。皆が美味しく食べてくれると、嬉しいし。でも…リッキー、そんなとこ気づいてくれてたの?」 アルフィンもまた驚いて小柄な少年を見た。 「こいつ、食い気は人一倍だからな」 「もちろん。おいら、食べるのが楽しみだからね!」 タロスのツッコミも気にせず、リッキーが胸を張った。 「嬉しいわ。ジョウは全然、気づいてくれてないみたいだけど」 「え・・・・・・」 いきなり、自分に振られたジョウが慌てた。 「い、いや。旨いよ、毎食。何の問題もない」 「兄貴、もっと気の利いたコメントしろよ!」 リッキーが不甲斐ないチームリーダーの背中をどやした。 「あたしからも一言、いいですかね」 タロスがソファから上体を起こした。 「ケズラ・バレーでのジョウの的確な判断がお見事でした。あのタイミングで降下しなければ・・・・・・おそらく今、あたしたちはココには居ませんぜ」 「そんな九死に一生の事態だったの?」 別行動をしていたアルフィンが目をまるくして訊いた。 「いやもう〜ほんと、ヤバかったんだって!おいらでさえ、ちょっと祈ったよ」 「何にだ?神にか?」 「誰でもいいから、とりあえず早くミネルバに帰して欲しいって!」 リッキーのあまりに率直な願いに、思わず皆が笑った。 「クラッシャーは即断即決、あたりまえの判断だ」 ジョウが笑いが収まった後に応えた。 「いやぁ、あの状況であの策は、なかなか。まあ、ジョウならハズすことはないと思っていやしたがね。さすがの判断でした」 タロスが至極まじめに言葉を継いだ。気のせいか、ジョウを見る目がいつになく温かい。 「よせ。なんだか…確かに慣れないな、こういうの」 とうとう、彼も赤くなった顔を隠すように黒髪をぐしゃぐしゃと掻いた。 「自分から言い出したクセに」 「そうだったな。でも…これだけは云っておく」 ジョウがあらためて顔を上げた。 「タロスとリッキーのフォローなしに、あの決断はなかった。危急の判断で詳細の説明が出来なかったにも関わらず、お前たちが俺の予想通りに動いてくれたからこそ、あの事態を切り抜けられた」 「チームワークの勝利、ってとこね」 アルフィンが明るく言った。 「さすがクラッシャージョウのチームってワケだね!」 リッキーも嬉しそうに鼻をこする。 「そうだな」 ジョウが笑って頷いた。 「この一年の大変な仕事もチームワークで乗り切った。皆が大きな怪我も無く、無事にミネルバに帰還できたことが一番重要なことだ」 「そうですな」 黙っていたタロスがおもむろに頷いて言葉を続けた。 「クラッシャーは仕事を完遂して、生きて帰って来ることが重要でさぁ。生きて帰って来たクラッシャーが次の世代にそのノウハウを伝えてゆく」 「百戦錬磨のタロスは…クラッシャーの鑑ってワケね」 「ダテに歳だけくってるワケじゃないんだ!」 「ほっとけ!」 リッキーのツッコミにタロスが歯を剥き出した。 「俺たちにはそれぞれ、いろんなバックグラウンドがある。その能力を活かした仕事をして、お互いにフォローし合える今のチームは本当に素晴らしいと思っている」 ジョウがチームのメンバーひとりひとりに目をやりながら、静かに言葉を続けた。 「この一年、本当によくやった。来年もこのスタンスを忘れずに、行こう」 四人がそれぞれの一年の仕事を振り返りながら、深く頷いた。 「理想的な仕事納めですな」 「あら。そんなこと言ってたら、年が明けたわ!」 アルフィンがリビングの銀河標準時間を刻むデジタル時計を指さした。 「ハッピーニューイヤー!」 リッキーが両手を挙げて叫んだ。 その時、リビングのドアがスライドして開き、一台のロボットが入ってきた。マニュピュレータの上のトレイにはシャンパングラスが四つ載っている。 「キャハハ。乾杯ノしゃんぱんヲ、オ持チシマシタ」 「おう、ドンゴ。気がきくな」 それぞれがグラスを取り、乾杯をした。 「反省会ハ終ワリマシタカ?」 卵型の頭部を回転させ、ロボットが質問してきた。 「今回は反省会じゃない。皆の良いところをピックアップして確認したんだ」 「キャハ?良イトコロ?りっきーニモアッタノカ?」 「なんてこと言うんだ!」 リッキーが拳を振り回して喚く。 「皆ちゃんとあるわよ。そうだ、ドンゴの良いところもピックアップしないとね!」 「キャハハ。アリスギテ、困ッテシマイマスネ♪」 ドンゴが自信満々にメンバー達に向き直る。 「うーん・・・・・・」 四人が一斉に考え込んだ。 ジョウは顎に手をやり、タロスは腕組みをして目をつむっている。アルフィンは小さな拳を口元において俯き、リッキーは頭の後ろに手を回して大袈裟にため息をついた。 「だめだ。全然、思いつかないよ!」 「キ、キャハ?」 「おまえ、昨年はポカ多かったからな」チームリーダーが、にべもなく言った。 「ロボットでポカって…一度ドルロイに送って診てもらった方がよくはありませんかね?」 タロスが他人事のように呟いた。 「そうね。ドンゴに繋ぐとヘンなデータばかりダウンロードされちゃうの、ホント困るわ」 アルフィンがちら、とロボットを見やる。 「キ、キャハ??」 「この前のクリーニング・システムの誤操作で格納庫が洗剤だらけになっただろ?あん時の後片付けも無茶苦茶大変だったんだぜ!」 リッキーが両手を広げて肩をすくめてみせた。 「もうドンゴも随分、稼働年数が長くなった。ここらで大掛かりな初期化も必要かもしれないな」 ジョウがかぶりを振って言った。 「ソ、ソンナ・・・・・・」 もう、笑い声さえも発せなくなったロボットが思わず、後ずさる。 四人が神妙な面持ちで下を向いた。 つかの間、沈黙が流れる。 ――と、次の瞬間。皆が一斉に笑い出した。 ジョウとタロスはソファの背にもたれ、顎を突き出して笑っている。アルフィンはその華奢な肩を震わせ、リッキーは腹を抱えて大笑いしていた。 「キ、キャハ?ナンナンデス!?」 ドンゴはワケが分からず、頭部を回転させた。 「嘘だよ。お前はいつもよくやってる」 ジョウがようやく笑いをおさめて言った。彼らしくもなく、語尾が震えている。 「そうよ!いつも私達の家<ミネルバ>をちゃんと守ってくれてるわ」 アルフィンが愛らしくウィンクした。 「そうそう、ロボットのくせに結構、気が利くしね!」 リッキーが涙を拭きながら、ドンゴを褒めた。 「そう思うと、おめェとの付き合いも長くなったなァ」 タロスが感慨深そうに言って、傍らのロボットを見やった。口調がいつになく優しい。 「マッタク...コノちーむハ。ろぼっとヲカラカウ時ニモ、息ガぴったり合イスギデス」 ドンゴが頭部のランプを点滅させながらボヤいた。どうやら、むくれいているらしい。 「わりィ。そう腐るな。その調子で今年も頼むぜ」 チームリーダーが笑いながら立ち上がった。 「けど、クリーニング・システムの操作には気を付けとくれよ!」 リッキーがぽん、とドンゴの頭を叩く。 「さて、年明け一番のミネルバの点検でもしてやりますか」 タロスが巨体をぐん、と伸ばしてからおもむろに立ち上がった。 「おめェも後で点検してやるよ。ヘンなデータ消しとけよ」 グローブのような手でドンゴの頭部を撫ぜる。 「いつも頼りにしてるわ」 アルフィンが腰をかがめて卵型の頭部にキスをした。 「!?」 万能型ロボットがとまどってランプを激しく点滅させる。 「あれ?こいつ、照れてやんの?」 リッキーが腰に手を当てて覗き込み、ひやかした。 「キ、キャハ。キャハハ。ハハハハハハ」 「やべェ、壊れた!?」 「えー!?キスしただけよ?」 「だめだよ、アルフィン。そんな刺激の強いことしちゃ。兄貴だって、固まってんじゃん」 ジョウが慌てて、かぶりを振った。 「アルフィン、機械相手にヘンなことするな」 「あれ?兄貴もして欲しいわけ?」 「バカ言うな!」リッキーのからかいに、ジョウが顔を真っ赤にして反論した。 「そうなの?ジョウ」 アルフィンが碧眼を輝かせながらジョウの顔を覗き込む。 「ち、違う!い、いや。違う、わけじゃないけど…」 チームリーダの意味不明な言動に今度は三人が一斉に笑った。 「じょうノ今年ノ課題ハ、あるふぃんトノ関係ヲ深メルコトニアリマスネ。微力ナガラ、ワタクシメガオ手伝イシマショウ!」 ドンゴがようやく正常なモードに戻り、したり顔で発言した。 「余計なお世話だ!」 「お願いね、ドンゴ!」 ジョウとアルフィンが同時に叫んだ。 「やれやれ、なんだか今年も騒がしくなりそうだぜ」 タロスが肩をすくめて、リビングのドアへ向かう。 「ここでドンゴが入ると、余計ハナシがややこしくなりそうじゃん?」 リッキーがタロスに身を寄せて、囁いた。 「たしかに」 二人は顔を見合わせて笑い、大騒ぎのリビングを後にした。 |
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