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「ねえ、ジョウ。レッスンしてくれない?」 ベンチプレスに横たわるジョウの視界に、碧い瞳が覗き込んできた。
ミネルバのトレーニングルーム。 格納庫の一角に設けられたルームにはいくつかのトレーニング機器とシミュレーションボックスが設置されている。 常にベストのコンデションを保つ為に、クラッシャーは日常の訓練を怠ることはできない。 彼らは暇を見つけてはここで身体を鍛錬し、銃火器のシミュレーションに励むのだ。
クラッシャージョウのチームは銀河標準時間で8時間程前に、短い休暇を終えていた。 今は次の依頼人と会うために惑星ランドックへ向かって航行中であった。 ある一定のインターバルでワープ航行しているため、時間調整が必要になる。全員が操縦室に缶詰になる必要は無かった。
ジョウは上体を起こし、額に噴き出している汗を腕で拭った。 「何をやりたいんだ?」 「うーんとね、格闘術。シミュレーションじゃいまひとつ、わかんないのよ」 人差し指を顎にあて、小首を傾げてみせる。今日は高い位置に結わえている金髪がさらり、と揺れた。 アルフィンは身体にフィットしたセパレーツのトレーニングウェアを着ている。 チェリーレッドのハーフ・スパッツから、すらりとした伸びた白い脚が目に眩しい。 「そりゃ、そうだ。相手は機械じゃあない、人間だ。実戦あるのみさ」 そういうジョウは黒のTシャツにグレーのナイロン製のトレーニングパンツを身につけている。 念入りなウォーミングアップで、すでに彼のシャツは汗で滲んでいた。
「想定する敵を男性とすると、体格・力量に劣るアルフィンは絶対に不利だ。まともに向かっても勝ち目はない。しかし、全く方法が無いわけでもないぜ。例えば・・・」 ジョウはアルフィンと相対し、身を低くしてファイティングポーズをとる。 「相手が大きいということは標的も大きく、動きも無駄がでやすい。逆に小柄なきみは素早く動くことで、相手に的を絞らせず反撃の機会も得られる」 ジョウは素早く右足を引いて体を開き、反動をつけてアルフィンの懐へ飛び込む。 「ここで肘打ち、または膝蹴りでダメージをあたえる。パンチ力に劣るアルフィンは、相手の急所を狙うべきだ。人間の身体の中心、鼻、顎、鳩尾・・・または」 身体を半回転させ斜め右に回りこみ、脛を狙って蹴りを入れるポーズをとった。 「敵の行動を阻止するための脛・太ももなどへの攻撃」 流れるような動作で、デモンストレーションを行うジョウ。鍛えられた身体は強く、しなやかに動く。 ジョウの慣れた身体捌きを、ほれぼれと見つめるアルフィンであった。 「かっこいい〜!」 「聞いてんのか?」 身体を伸ばし腰に手をあてて、ジョウが眉をひそめて言った。 「うん。もう一回やって」 「本当かよ・・・」 ジョウは肩をすくめて、ぼやいた。
しかし意外なことに、アルフィンの呑み込みは早かった。 身体も柔らかく、元々の反射神経も悪くは無い。 しかし何よりも、皆の足手まといにはなりたくない。その持ち前の勝気さが、彼女を後押した。 , 「いいぜ、アルフィン。その調子だ」 彼女の膝蹴りを腕でブロックしながら、ジョウは言った。 「ほんと?」 そういうアルフィンは額に汗を光らせ、頬を上気させている。アップした後れ毛が白い首筋にまとわりつく。 「ああ。あと千回くらい練習したら、実戦でも無意識に身体が動くぜ」 「千回!?」甲高い声で復唱する。 「クラッシャーは日々の鍛錬が重要なのさ」 にやり、と笑ってジョウが言う。アルフィンがぺたりと腰を落とした。 「やってられないわ」 ジョウが苦笑して、言葉を継いだ。 「何も全ての技をマスターすることはない。得意技を持てばいい」
「基本的な関節技を教えよう。かけるのにコツが要るが、要領が分かれば少しくらいのウエイトの差があっても相手を落とせる」 ジョウがアルフィンに背を向けて膝をつく。 「きみが小柄な身体を利用して背後に回り、さっきの要領で脛または膝裏を蹴って、身体を崩させる。立ち技でもかけれないことはないが、身長差があると難しい」 そして彼はアルフィンの右腕を取り、自分の首に廻す。 「首は急所のひとつだ。気道もしくは頚動脈を圧迫すれば、相手は動けず、呼吸も難しくなる。ちゃんと技が決まれば、10秒はもたない」 アルフィンは右腕でジョウの首を抱え込むようにし、指示される通り左腕をひっかけて右肘を引き寄せる。 「肘に引っ掛からなければ、右手首を掴んで引け。脚は相手の胴に絡ませる。背筋を伸ばして身体を捻る様にするれば、技が効いてくる」 言われた通りに脚をジョウの胴にかけて、上体を斜め後ろに反らす様に捻る。 「これで、いいの?」 あられもない格好でアルフィンが訊ねた。 「いいぜ。効いてる」 確かにジョウの答えは、いささか苦しそうだった。
「ほんと?」アルフィンが嬉しそうに再度、訊く。 「ああ。もう、いいぜ」ジョウの声は掠れ気味だった。 しかし、アルフィンは腕の力を緩める気配はなかった。碧い瞳が悪戯っぽく光る。 「じゃあ、これからの質問に正直に答えてね」
「昨日、ダイナスの出国管理局でずいぶん長話してたじゃない?」 「は?」 ジョウが掠れた声で苦しそうに、聞き返す。 「カウンターに居た黒髪のショートボブの娘と。何話してたの?」 「べつに・・・。出国手続きしてた、だけだ」 ジョウは何とか気道を確保しようと、アルフィンの腕に手をかける。 「何か、カード渡されてたわよね?」 アルフィンがそうはさせじと、腕に力を入れる。 「う・・・。あれは、緊急の連絡先を書いて寄越した」 「これから出国するのに、緊急連絡先?ばっかじゃないの?個人のメールアドレスか指定回線だったでしょう?」アルフィンが呆れた声で言った。 「知らん。ポケットに入れたままだ」 アルフィンが大きなため息をついた。「相変わらず、鈍感なんだから」
「じゃあ、あともうひとつ」 「ま、まだあんのか?」ジョウが目を剥いた。アルフィンの力だからまだもってはいるが、自分が指示した技はちゃんと決まっていて、かなり辛い。 「先月のバレンタインの日、ギャラクシー・パックで届いたものがあったわよね?あれ、誰から?」 金髪碧眼の美少女は、抑揚の無い冷静な声で尋ねた。 インストラクターのはずの黒髪の青年は、技が効いているのかどうか知らないが、黙ったままだ。 「言えないの?じゃあ、代わりに言ってあげましょうか?ルーでしょ?」 「・・・・・・・」 「リッキーがリビングで美味しいそうにチョコ食べてたわ」 「あんの野郎・・・」ジョウの声は掠れている。 「なんで隠すの?」そんなことは気にもせず、アルフィンは冷たく言い放った。 「まさか、ホワイト・デイのお返しなんか、しないわよね?」
ジョウはようやくアルフィンの腕と自分の首の間に指を入れた。しかしまだ苦しそうに呟く。 「なんだよ、それ」 アルフィンは碧い瞳を見開いた。 「やだ。まだ知らないの?もしかして、あたしにもお返しくれないつもり?」 ジョウの脳裏に情報の断片が想い浮かんだ。 ホワイト・デイとは、確かバレンタインと対になるイベントで・・・男性はチョコレートをもらったら、何かを女性に返えすとか返さないとか。 一体何を返すんだ?もらったチョコをそのまま返すのか?それとも、違うものを? 酸素の薄くなってきた脳細胞でそんなことをぼんやり考えた。しかし、とりあえずこの状況から脱出することが、先決だった。 「し、調べておく」やっとのことで、そう答えた。
アルフィンは大袈裟にため息をついて、腕を緩めた。 ジョウが崩れ落ちるようにマットに手をつき、咳き込む。 いくら力の弱いアルフィンの締め技とは言え、長い時間の頚動脈圧迫は、効いた。
「ほんとに、関節技って効くのねえ」 ジョウのそんな状態を目の当たりにして、アルフィンが感心して言った。 その悪気のない素直な一言にジョウはむっとした。生来、負けず嫌いの上、生粋のクラッシャーとしてのプライドもある。悠長に横に立つアルフィンに、素早く脚払いをかけた。 「きゃ!」 たまらずマットに仰向けに転がる。ジョウは横様に上にのしかかり、アルフィンを組み敷いた。 「よくもやってくれたな」 「いやん!離して!」 アルフィンは脚をばたつかせるが、力では到底ジョウには敵わない。 ジョウは彼女の両手をつかんだまま、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。 「それじゃあ今度はこっちの質問にも、答えてもらおう」
「この前、シューズショップでえらい長く店員と話してたが、何してたんだ?」 ダイナスのショッピングモールでアルフィンはサンダルを探していた。ペルーブルーのワンピースに似合うサンダルが欲しかったのだ。 とあるシューズショップのシューフィッターが懇切丁寧に応対した。30代半ばほどのなかなか端正な顔立ちの男性だった。 彼はにこやかに微笑み、アルフィンのすらりと伸びた脚を誉め、何種類かのサンダルを手ずから丁寧に試着させてくれた。 「そんなの決まってるじゃない。どんな色が好みなのかとか、どんな場所へ履いていくのかとか・・・」 アルフィンが口を尖がらして、言う。 「その後、顔を赤くして首を振ってたろうが。何て言われた?」 「そ、そんなことあったかしら?」 アルフィンがしらじらしく、甘えるように小首を傾げた。 「そんなんじゃ、だまされないぜ」 ジョウが口の端をあげて、にやりと笑う。 「正直に言わないと・・・」右手をアルフィンに脇腹のあたりに持っていく。 「いやん!そこだめ!」 アルフィンが身をよじって、逃れようとする。しかし、ジョウはそれを許さない。右大腿部でアルフィンの下半身を抑え、彼女の脇腹をくすぐる。 「きゃはは!いやあ!」 アルフィンはそこの場所が苦手であった。そこに手をかざしただけで、身体がむずむずしてくる。 彼女は悲鳴をあげてその手から逃れようと暴れたが、そんな簡単に離してくれるジョウではなかった。
「やめて!いやあー!!」
当直のタロスはひとり、主操縦席のシートについていた。
脚をコンソールに投げ出し、いささかルーズな姿勢でサブスクリーンを眺めている。 そこにはアラミスから定期的に送られてくるマガジンが映されている。ここ一週間のクラッシャーに関するニュースパックや他チームの近況報告などだ。 クラッシャー暦40年を越えるタロスにとって、よく知ってる顔ぶれが登場することも多く、結構これを楽しみにしているのであった。 そんな独りの楽しみをぶち破る輩たちが、操縦室に飛び込んできた。
「タ、タロス!大変だ!」 小柄なリッキーが文字通り、転がるように飛び込んできた。 タロスがただでさえ凄みのある顔を不機嫌にしかめて、首をめぐらす。 「なんだ?毎度毎度、うるせぇチビだぜ」 「そんな呑気なこと、言ってる場合じゃないって!アルフィンが大変なんだ!」 リッキーはどんぐり眼をいっそう大きくして喚いた。 「お、襲われてるみたいなんだ!」 「襲われてる?誰にだ?」 タロスは間の抜けた声で訊いた。 その質問には、リッキーの後ろから甲高い声が答える。 「キャハ。あるふぃんハ520秒前カラとれーにんぐ室ニオイテ、じょうニ襲ワレテイル模様。大変ダ」 キャタピラをシャリシャリ鳴らしながら入ってきたドンゴがリッキーに並んだ。
「ち、ちょっと待て。ジョウが襲われてる、の間違いじゃねぇのか?」 さすがのタロスもちょっとうろたえて、訊き返した。 「違イマス。ワタクシノ基本ぷろぐらむガ、あるふぃんノ悲鳴ヲきゃっち、分析シマシタ。コレハ女性ガ襲ワレル際ノ声紋でーたト一致シマス。彼女ノ同意ハ得ラレテオリマセン。あるふぃんノ救助ヲ最優先スベキデス」 確かにドンゴだけでなく、あらゆるロボットの基本プログラムには人命救助の最優先事項がプログラミングされている。 今回ドンゴの基本プログラムは、アルフィンの悲鳴を彼女の生命の危機、と判断したようだった。
タロスは素早くコンソールに向き直り、船内カメラを切り替えた。トレーニングルームが映し出される。 奥のマットフロアに確かに、ふたりの姿が見えた。ジョウがアルフィンを組み敷いている。集音装置がアルフィンのかすかな悲鳴を拾っていた。 タロスとリッキーが顔を見合わせる。 「こいつぁ・・・」タロスの声が掠れた。 「や、やばいよ。兄貴どーしちゃた、かなあ?」リッキーも呂律が回っていない。
まさかあの天然記念物並の奥手なジョウが、こんな行動に出るとは到底考えられなかった。 いや、しかしいつも抑制しすぎているのが裏目に出たのか? 確かにジョウと言えども、聖人君子ではない。健康な一青年である。魔がさしてしまったのか? ふたりの頭の中はぐるぐると色んな理由と憶測が渦巻いていた。
「と、とりあえず、助けに行こうよ・・・」リッキーがあえぐように口を開いた。 「そ、そうだな」タロスが巨体を起こした。 ふたりと一台は操縦室を飛び出し、後方の格納庫へと向かった。
プライドをいささか傷つけられたジョウは容赦なかった。 少年が悪ノリするように、意地悪くアルフィンを苛めている。何とも大人気ないジョウであった。 「いい加減、素直に言ったらどうだ?」 「やん!やめてったら!いやあ、きゃはは」 涙を流しながら、泣いてるのか笑っているのか分からない声でアルフィンが喚く。 上に結わえあげていた細い金髪はすでに解けて、汗ばむ顔や首筋にまとわりつきマットに広がっていた。 彼女は苦し紛れに空いている左手で、ジョウの顔をばんばん叩いた。 「ててて」 ジョウは顔をしかめてアルフィンの両手を束ね、自分の左手一本で押さえ込んだ。 上半身の自由が効かなくなり、彼女は脚をばたつかせることしか出来ない。
その時突然、ジョウが動きを止めた。 そして自分が押さえ込んでいる、少女をまじまじと上から見つめる。
彼が左手ひとつで掴める、両手首の細さ。 上にあげられた白い両腕、細くくびれた腰、そして必死でばたつかせる脚のなんと華奢なことか。 こんな華奢な身体で、俺達と一緒にあんな危険な仕事をしているのか。 ジョウは今更ながらに驚き、とまどって上体を起こした。
小さな金色の頭を振りながら必死に逃れようとしていたアルフィンは、攻撃が止んだのに気付いた。 肩で荒く息をしながら、おそるおそる上から押さえ込むジョウを見る。 自分をじっと見つめる漆黒の瞳に気付き、自分のあられもない格好を思い出した。 陶磁のような白い肌が一気に薔薇色に染まる。 碧い瞳が恥ずかしそうに、目を逸らした。
「ジョウ・・・痛いわ」 そんなしぐさにジョウは胸が締め付けられるようだった。 こんな華奢な身体で、必死に自分達に付いてきている少女がたまらなく、愛しくなる。 「アルフィン・・・」 ジョウの指が、少女の頬にかかる乱れた金髪を優しく掻きあげた。
「ジョウ!」 「兄貴!」 「キャハハ!」
なんとも可笑しな声の合唱で、ふたりのクラッシャーと一台のロボットが部屋に飛び込んできた。 ジョウが驚いて、顔をあげる。アルフィンも組み敷かれたまま、逆さまに頭をそらし入口の方を見た。
モニターで確認はしていたが改めて実際の現場を目の当たりにし、彼らは立ちすくんだ。 「ジョウ。は、早まっちゃあ、いけませんぜ」タロスが大きな両手のひらを慌しく振る。 「そ、そうだよ、兄貴。無理矢理ってのはマズイよ」リッキーも両の拳を振り回した。 「は?何言ってんだ、おまえら」ジョウがきょとん、として言った。 しかしその理由はすぐに、耳につく甲高い声が説明してくれた。 「キャハハ。じょうハ婦女暴行ノ現行犯デス。スグニあるふぃんカラ離レナサイ」
「なんだって?」 ジョウは一瞬頭に血が昇りかけたが、自分が組み敷いているアルフィンに気付き、奇跡的な速さで飛び起きた。そして耳まで真っ赤になりながら、ロボットに向かって怒鳴る。 「変なこと言うな、ドンゴ!」 「そーよ!あたし、ジョウにレッスン受けてたのよ!」 アルフィンも顔を真っ赤にして飛び起き、バラバラに乱れた金髪を直す。
「レッスンって。寝技、ですかい?」タロスが訝しげに訊く。 「何教えてたんだよ、兄貴。俺らてっきり・・・」リッキーがニヤニヤと追い討ちをかける。 「バ、バカ言うな!」ジョウが両手を振り回して、喚いた。 しかし、ここでアルフィンがあっさりと裏切った。 「あん!でもさっきのはジョウが悪いのよ。無理矢理、押さえ込まれたんだから」 「ほう」とタロス。 「っぱし」これはリッキー。 突然の展開にジョウは目を白黒させて、何も言えない。 「キャハ。ソウデショウ?あるふぃんノ悲鳴ハ、ワタクシノでーたばんく内ノぱたーんト一致シテマシタ。確実ニあるふぃんノ貞操ノ危機デシタ。キャハハ」 「おめえ、どんなデータバンク持ってるんだ!?」 タロスが傍らのドンゴの胴体に、蹴りを入れた。
「騒がせてすまなかった。悪ふざけがすぎた」
顔を真っ赤にしたまま、チームリーダーがぼそぼそと謝った。 なんで自分が謝罪しなければならないのか彼は今ひとつ納得できなかったが、このまま冷やかしのネタになるよりはマシだった。 「まあ、そんなこったろうと思いましたがね。このチビが大袈裟に騒ぎ立てるもんで・・・」 タロスはそんなジョウをフォローするように、隣の少年の頭をこづいた。 「なんだよ!お、俺らだって、ドンゴが緊急事態だって言うからさあ」 リッキーは慌てて自分に向けられた矛先を避けて、隣のロボットを指差した。 そのドンゴは頭部のLEDランプを激しく点滅させて、むくれている。
「俺、シャワー浴びてくるわ」 大きなため息をついてタオルを首にかけ、ジョウがドアに向かう。その背中はぐったりと疲れ果てていた。 「えー?もうちょっと技の練習したかったのにぃ」 アルフィンが先ほどの裏切りの言動を棚にあげて、不満そうに言った。 「リッキーにでも、相手してもらえ」 もうジョウは振り返りもせず、うるさそうに右手をあげて答えた。 「ええっ?俺ら?」 リッキーが目を剥いて逃げようとするのを、アルフィンはあっさりと彼の襟首をつかんで止めた。 「そうね。ちょうど良かったわ。リッキー、お願い」
むっつりとトレーニングルームを後にしたジョウに、タロスが素早く近づく。 「ジョウ」 ああ?とタオルで顔の汗を拭いながら、首をめぐらす。 タロスが巨体を屈めて、ジョウの耳元で囁いた。 「今度からプライベート・レッスンは場所を選びなせい」 「タ、タロスっ!?」 再び顔真っ赤にして、怒鳴り返そうとした時。 トレーニングルームからリッキーの魂消る悲鳴が響いた。 思わずふたり、顔を見合す。そして、すぐに横をキャタピラ走行するロボットに視線をやった。
「ドンゴ。今の悲鳴は、拾わないのか?」 ジョウが不審そうに訊く。 ドンゴは停止し、しばしLEDランプを点滅させた、 「キャハハ。今ノ悲鳴ハワタクシノでーたばんく内ノ情報ニ該当スルモノ無シ。ヨッテりっきーノ危機トハ判断デキマセン。キャハ」
「そうかなあ?」 ジョウは大袈裟にかぶりを振って、にやりと笑った。 「まったく。ひでぇデータバンクだぜ」 タロスも他人事のように言って、口の端をあげた。 そしてふたりは、腹を抱えて笑い出した。
憐れリッキーの悲鳴はその後2時間あまり、途切れることは無かった。
<END>
実はこのSS う〜ろんさまサイト『woopeace』のおえびに描かれていた「いちゃらぶvプロレス」素敵イラに うきゃーvと刺激されて思わず書いてしまったものなのです!
(^^; ―そこで。今回お船にSS格納につき、無理矢理もろうて来てしまいました☆→コチラ!
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