海 藍 何処までも続く大海原。 見つめるその先には天地を分ける水平線が横たわる。 何処まで行こうとも空と海は交わることはない。同じ青でも空の青と海の青は同じにはならない。 海洋惑星ドルロイの夕暮れ。 鮮やかな朱赤の光が落ちてゆく様を、日が落ちる前からジョウはずっと見つめ続けていた。漆黒の星海とは違う青く透き通る水を湛えた海原は、足元の砂と共に両足を優しく擦り抜けてゆく。 落ちた陽の光の残像が、天空を茜色から夕闇色に染め替えて。小さく揺れる波頭も、光に躍るように青から朱、紫へと色を変化させていた。 ジョウは一人、波打ち際に立って広大に広がる海を見ていた。 Tシャツにジーンズというラフな格好。少し向こうに脱ぎ散らかしたスニーカー。 僅かばかりの休暇中、堅苦しいのはごめんとばかりに。 寄せては返す波音と自らの心音、そしてゆっくりと呼吸をする自らの呼吸音。今、ジョウの周りを支配する世界に存在する音は優しく時に温かい。命の刻む音は、誰が創めたのかも、誰が定めたのかも分からない不思議な音。 時折、さらさらと心地よい夕風が、ジョウの髪を撫でるように吹き抜けてゆく。 何かに抱かれるようなその感覚はジョウにしか分からないもの。自然の優しさが身体中に染み渡る。 仕事の合間、久々に行う”ミネルバ”のメンテナンスにこの星に来て二日目。 誰に会うでもなく、何をするわけでもなく、ただ一人になりたかった。 迷い戸惑う時は、宇宙に居れば星々を見つめながら一人、考えに落ちる。宇宙のように大きな存在の前に立つと自分のちっぽけな悩みを、糸を解くように複雑に絡んだ心の迷路を照らしてくれる。 だが、今は生憎と愛機はメンテナンス中。それならばとこの星で一番大きな存在の海に来て見たのだ。 今回の仕事は、いつもより厳しく辛い仕事だった。好きでやっているクラッシャー稼業だが、チームメイトに支えられているとコレほど感じたことはなかった。 そして、胸が潰れそうになるほど彼女を失ってしまうのではないかという喪失感との戦いも。 大事だから失いたくない。 単純な願いだからこそ、心からの叫び。 時としてその想いがチームリーダーとしての足枷になっていると分かっていても、気が付けば押さえ込んでいた意識の下から顔を出す。 アルフィンが愛しい。 その思いは誰にも負けない。 でも、その想いが彼女を不幸にしてしまったら? そんなことを考えだせば、迷いの闇がどんどん広がってゆく。 振り払うように再び視線を上げて水平線を見れば、ふと、日焼けた肌を誰かが掴んだ。 振り返ると黄金色の髪に紺碧の瞳を持つ女が、鮮やかな光を瞳に浮かべてジョウを見上げていた。 失いたくないこの世で大事な存在。自分の全てを投げ出しても守りたいと思う存在。 「アルフィンか・・・」 「何、一人で黄昏てるのよっ」 明るく声を掛けながら鮮やかな濃紺にレースをあしらったサマードレスを纏った彼女は、誰に言われるでもなくジョウの隣に立つ。まるで、そこが自分の指定席であるかのように。 「あたしじゃなく誰だと思ったのよ」 少し剣があるような言葉。拗ねる姿も可愛いと思うのは惚れた弱みか。 「いや、そういうわけじゃないんだが・・・」 「何をしてたのよ?」 口篭るジョウを見てクスリと笑った彼女は、気を取り直してジョウに尋ねる。 「ずっと見ていたんだ」 「海を見ていた」と返答されるものと思っていたのに、少し風変わりな返答にアルフィンはちょっと怪訝そうにジョウを見上げた。 「・・・何を見ていたの?」 「この先にあるもの・・・かな」 曖昧な答えにもう少し踏み込んでみる。拒絶されるかもしれないが、聞かずに後悔するよりいい。アルフィンはそう思った。 「何か見えた?」 「ああ」 少し照れくさそうに微笑むジョウの顔が、アルフィンにとって抱きしめたくなるような素敵な笑顔だった。 迷い悩む姿を見せようとしない彼の行動を時として寂しく思いながらも、その悩みから必ず抜け出す強さを持った男性だとアルフィンは知っていた。 だから、アルフィンも耐えて待っていた。その悩みから抜け出てくるジョウを。 そして、そんなジョウを一番に出迎えるのが自分でありたいと。 「あたしもずっと見ていたのよ」 「何を?」 今度はジョウがアルフィンに尋ねる番だ。彼女の見ていたものを知りたいと思う。 「・・・ジョウ」 「は?」 「貴方をずっと見ていたのよ」 頬染めて微笑むアルフィンに、ジョウもつられた様に頬を染めた。 「そ、そうか」 口から紡ぎだされた言葉がぎこちない。それも致し方ない。 ストレートな愛情表現を受けることに慣れないジョウには、彼女の表現はどう受け止めていいのか分からない。素直になることが難しいと思うのは自分だけなのだろうか。 「そうよ、ずーっとずーっと見てたんだから。そしてずーっとこれからも見ていくわ、貴方のこと」 海の藍を湛えた優しい瞳。ジョウを時に叱咤し、時に優しく包み込んでくれる愛しい女性。 「お互い同じものを見てたんだな」 小さく照れて呟く彼の言葉にアルフィンは優しく微笑んだ。 「これからも貴方と同じものを見ていきたいわ、ジョウ」 少し背伸びして頬に口付ける彼女の唇の柔らかさに、ジョウはそっとアルフィンを腕に抱き寄せて頷いた。 夕闇の空と海は静かに二人を見守り続けた。 そして、これからも彼らが二人で居続けることを切に願いながら。 <終> 『Meteor』開設一周年のお祝いにEtarnal Forestの璃鈴さまより、またまた素敵SSをいただいちゃいました!!(^-^* 題名の「海藍-ハイラン-」は中国語で海の青を意味する色名だそうです。 偶然だったようですが、中国語スキーvの私としてはもう題名だけでツボ直撃!すでに頬がだるだるに緩んでおりましたよ〜v そして内容は・・・言わずもがな、璃鈴さんの珠玉のごとき情景描写は、本当に美しくて溜息が止まりません。 もう、私の脳内アニメは朱赤の光りに照らされるJ&Aの横顔・・・ああ、うっとりv(でもイラストはJさんの足だけ^^;) 璃鈴さーんv今回も本当に美しいSSを、ありがとうございました!! ―そして。これからも『Meteor』共々、どうぞ宜しくお願いいたします☆ |
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