それを言い出したのは、アルフィンだった。
「だって私達こんなに長い間、宇宙を駆け回ってんのよ。少しくらいキャストの意見を取り入れてくれても、いいと思わない?」

ミネルバのリビングルーム。
テーブルを丸く囲んだソファでクラッシャージョウのチーム4人はくつろいでいた。
コーヒーの香り漂う、いつものミーティング風景。
しかし、この日のミーティングの内容は・・・なんとも奇妙なモノであった。

「でもさぁ、ミスタ・タカチホだっけ?その人に俺ら達がリクエストしたとして、ほんとにストーリーに反映されんのかなぁ」
小柄なリッキーが両腕を頭の後ろで組み、どんぐり眼をくるくるさせて言う。
「やってみなくちゃ、分かんないわよ!この前だって13年ぶりの新作だったのよ?そんでもって今度は順調に出るかと思いきや、いつもの通りの連続遅延。きっと、ストーリーも行き詰まってるのよ!」
アルフィンが勢い込んで身を乗り出す。
「ここで私達がリクエストを提示して、それを元に次々と新刊発行。ベストセラーへの復活!こーんないい話無いじゃない?」
「相変わらず、お気楽モード全開だなぁ」
リッキーがまぜっかえす。

「まぁ、確かに仕事の空き期間が長すぎまさぁ。これじゃあ、身体がナマっちまう」
いちばん端に座るタロスがその巨体をソファに預けながら、苦笑する。
「いーじゃん、俺ら達たいして歳とらないみたいだし。タロスなんて最近、年齢も書かれてないんじゃない?」リッキーが目を細めて挑発する。
「るせえ、クソガキ。そんなこと言ってるから、背も伸びねえんだ」
「なんだと!無駄にデカけりゃ、いいってもんでもないだろ!」
「なにィ?無駄とはなんだ!」
ふたりともソファに立ち上がらんばかりの勢い。
「いいかげんにしろ!」
それまで黙っていたチームリーダーのジョウが一喝した。
「おまえたちも、つくづく成長しないな・・・」
胸の前で腕を組み、上体をソファに預けてため息をつく。
「まぁ、そこいらへんのことも含めてこの機会に提示してみるってのも、悪くはないな」
顎に右手を添えて、呟くように続ける。
「そーだよ!おいら、タロスとのケンカにはもう辟易してんだ。もうちょっと違うバージョンで活躍させて欲しいね!」リッキーが勢い込んで言う。
「何言ってやがる。俺だってチビの子守りは願い下げだぜ」
タロスが凄みのある顔で横を睨んだ。

「そうか・・・」ジョウが悪戯っぽい目つきでふたりを交互に見る。
「なんなら、アルフィンとの組み合わせにでも、換えてもらうか?」
「え?」ふたりの動きがぴたり、と止まった。
慌ててチームリーダーに向き直る。
「いや、あ・・・と、おいらやっぱ、タロスでいいや、うん。もう息もぴったし、だし」
「そ、そうですな。あ・うんの呼吸ってやつでさぁ」
リッキーとタロスは慌てて握手を交わした。タロスはリッキーの肩に手まで廻している。

「希望だけなら、構わないのよ。入れとく?」
タイピングしているアルフィンの碧い瞳がぎらり、と二人を射た。
「いいえ!結構です!」ふたりとも見事なハーモニーで断った。

ふたりのそんな様子を面白そうに眺めていたジョウは、ゆっくりとコーヒーを口元に持っていく。
「で、アルフィンは?何が希望なんだ?」
「あたし?」
アルフィンはすぐにタイピングを止め、細い指を胸の前で祈るように組んだ。
碧い瞳がうっとりと遠くを見る。
「ジョウと早く、一線を越えますように」
「ぶっ」
ジョウが派手にコーヒーを吹き出した。
「汚いわねぇ!」アルフィンが甲高い声をあげる。
ジョウは耳まで真っ赤になりながら身体をふたつに折り、咳込んでいる。
呼吸ができていない。

「えー、まだ越えてないんだ?その設定、固いねぇ。兄貴がんばれよ」
リッキーがここぞ、とばかりにニヤニヤと突っ込む。
「ば、ばか言え、この設定でいいんだ!俺達はクラッシャーだぞ!」
ジョウは赤面したまま、苦しそうに喚く。台詞はすでに意味不明であった。
「えー。ジョウはこのままの関係で、いいの?」
アルフィンが身をしならせて、ジョウの顔を覗き込む。
「う・・・」
「あたしは・・・何かこう、もうちょっとムードのある場面が欲しいな」
アルフィンが恥ずかしげに頬を染めながら、言葉を継ぐ。
「たとえばぁ、二人っきりで出かけるシーンとかぁ」
「アルフィン、いっつも兄貴とファイター1で出撃すんじゃん」
リッキーがまた面白そうに混ぜっ返す。
「ばか!そんなんじゃ、ないのよ!」アルフィンが拳でリッキーの頭をこづいた。

「ス、ストップ、アルフィン。あんまりストーリーから逸脱しない範囲で、いこうぜ」
ようやく平常に戻ったジョウが、空想にひた走るアルフィンを引き戻す。
「もう、いいか?」早く妄想を止めさせたい。
「ううん、まだまだあるわ!」ジョウの思惑とは裏腹に身を乗り出すアルフィンだった。





「もうちょっと、女性のゲストキャラを減らして欲しいわ」
「は?」3人のクラッシャーたちはきょとん、と目を瞠った。
「だってぇ。何かと綺麗な年上の女性、なんてのが出てきて。ジョウに色目使うから、気が気じゃないのよ!」身をよじりながら、アルフィンが訴える。
3人の男クラッシャー達はうーむ、と唸ってソファに倒れ込んだ。

「しかし、俺たちはがさつなクラッシャー揃いですぜ。そして周りはクライアントのおっさんや殺し屋、連合宇宙軍ばかりときてる。そりゃあ、<花>が欲しいところだ」
タロスがまんざらでもなく答える。
「そーだよ!それもファンサービスだって。それに皆が兄貴になびくわけじゃないだろ?俺らの可能性も充分にあるし、万が一、タロスって可能性も無いわけじゃない」
リッキーが片目をつむって手をひらひらさせる。
「ぬかせ!ねしょんべんチビ!」
「あんだとぉ」ふたりの中がまた険悪になる。

そんなやりとりは完全に無視して、アルフィンは俯きがちに呟いた。
「それに・・・女性ゲストとジョウが絡むと、私のお決まりのヤキモチでしょ?ちょっとあれ、表現ひどすぎない?清く可愛らしいヒロイン像をぶち壊しかねないわ」不満そうに続ける。
そう言われて、ジョウはアルフィンの嫉妬に荒れ狂う様を想い出し、身震いした。
確かにあれはひどい。知らない人が見ても、腰が引ける。
「あのせいで私、男性ファンが少ない気がするのよねぇ・・・」
可愛らしい金の頭を少し傾げる。
「そんなこと、どうだっていいだろ」ジョウが憮然とした表情で、言った。

「とにかく、俺は別にゲストが女性でなくてもいい。それよりもうちょっとマシなクライアントを寄越して欲しいぜ。毎回、面倒なヤツばかりだ」顔をしかめて言う。
「確かに、そうですな。ベラサンテラ獣の護送やクリムソン・ナイツ、ワームウッドなんかもクライアントが裏切りますからなあ」他人事のようにタロスが呟く。
「本当にアラミスがチェックしてるのか、疑うよ。俺ら」リッキーもぼやいた。
今までの困難な仕事を想い出して、はあ・・・と一同ため息をついた。

気を取り直して、アルフィンがキーボードに向かう。
「あとは?ジョウ」
「うーん。機材の消耗が激しすぎるな。毎回、ミネルバはドック入りだし、ファイター1・2、ガレオンもすぐ爆破される。経費もバカにならん」
「ひょえー、兄貴も固い希望だすねぇ。面白くもなんともないや」
リッキーが呆れた。
「ばか。チームリーダーなら当たり前だ。おめぇもたまには気にして操縦しろ」
タロスにこづかれる。
「しかし、本当に簡単に宇宙船をふっとばしますな。おやっさんの<アトラス>自爆の時はぶったまげましたぜ」タロスが不満そうに鼻をならす。
「あれな。俺達の想い出なんて、何も気にしちゃいねぇ」ジョウも面白くなさそうに続けて言う。
「なんたって、酷いのはバードの船<ドラクーン>だろ!」
リッキーが身を乗り出して喚いた。
「いちばん最初はカインでVQガスにやられちまって、使いものにならなくなっただろ?<ドラクーンU>はギランの空港でまっぷたつ。<ドラクーンV>なんて登場して5頁そこいらで、クリスの野郎に爆破されてんだぜ?」
「ひど!めちゃくちゃね!」アルフィンが両の拳を口元にあてて、目を丸くした。
「おまえ、よく覚えてんなあ」ジョウは違うところで、感心して目を丸くしている。
「まったく、バードもついてねぇ」
タロスが凄みのある顔を歪めた。

「作者がいちばん、壊し屋だぜ」





「あたし・・・ジョウの怪我も多くて、心配よ」
アルフィンが形のよい眉をひそめる。
「毎回、エスカレートしてない?クリスの時も<悪魔の爪>を背負わされて血まみれだったし、テュポーンとの対決の時だって、酷かったわ。骨が見えたり、生爪が剥がれたり・・・」
アルフィンは両腕で自分の身体を抱くようにして、身震いした。
「ぜったい、サドよ。あの人」

「ああ。キマイラでの最後もやばかったしな。ブラスターでシモノビッチに背中を焼かれた後、俺は5年近くも草叢に転がされてたんだぜ」
ジョウがその時の痛みを想い出したのか、顔を大袈裟に歪める。
リッキーが思わず噴出しそうになって、慌てて横を向いた。
「あの巻で主人公が死んじまってシリーズ終わり、と思っていた読者もいたようですからなあ」
タロスが他人事のように、言った。
「ひでぇな」ジョウがぼやく。

「俺もそのうちタロスみたいに全身の殆どがサイボーグって、ことになっちまうのかな?」
「いやーん、顔だけは気をつけて、ジョウ。主人公はルックスが大事よ!」
アルフィンがジョウの腕を取り、揺さぶる。
「兄貴がタロスみたいな顔になっちゃったら女性ファン、減るかもな〜」リッキーが面白そうに言った。
「あたし、別にタロスの顔は好きよ。この風貌もストーリー的にとても役立っていると思うわ。でも、ふたりこの顔は要らないでしょ?」
「なんとでも言いやがれ」タロスは毒づいて、げんなりとソファに巨体を埋めた。

「でもさあ、怪我って言ったら断トツ、俺らが多くない?そりゃあ、命にかかわる大きなもんじゃ、ないけどさあ。何だか安易に怪我させられてる気がするんだよね」
リッキーが不満そうに口を尖らす。
「そう言えば頭に包帯巻いてるシーンとか、多いわよね」
「まあ、おめぇにはそんな役割しか、無いってことだな」タロスがからかう様にまぜっ返した。
「なんだよ、その言い方!あったまきたぜ!」
「うーん、しかし頭の怪我が多いのもマズイな・・・。最近、ポカが多いのもそのせいか?」
ジョウが顎に手を添えて、ちらりとリッキーを見る。
「なんだよ、兄貴まで!」もうリッキーは半ベソである。一同が声をあげて笑った。
「みんな心配してるのよ。オッケイ、入れとくわ」アルフィンが片目をつむって言った。


「あっしからもひとつ、いいですかい?」タロスがソファから上体を起こして言った。
「なんだ?」ジョウが首をめぐらす。
「いや、以前から気になっていたんですが。ちょっと人を殺りすぎじゃあないかと・・・」
「ふ・・・む。そうだな。仕事が物騒なだけに、仕方ないと言えばそれまでだが。一般市民の巻き添えも多いしな」ジョウが眉をひそめて、腕組みする。
「一行で何百万人殺したりするからな」
「噂に聞く、ダーティペアのシリーズなんて、惑星単位でぶっ壊してんだろ?」
すねていたリッキーが復活して、面白そうに言う。
「あー、あのトラコンの姉ちゃんたちな」タロスが苦笑した。「あいつらも因果なキャラ設定だぜ」

「それに結構重要なゲストキャラも、意外とあっさり殺しちゃうのよね」
アルフィンが小首をかしげる可愛らしい仕草とは、裏腹な台詞を言う。
「ガンビーノから始まって、コワルスキー、ブロディ・・・」
「そーだよねー。これから活躍させたら面白そうなキャラもたくさん居たのになあ」
リッキーが不満そうに鼻をならして言う。
「リーガン、ペルアーノ、マンフリイ。それにタイラー・・・。クラッシャーも結構殺ってくれてますな」
タロスも憮然とした表情のまま、再びソファにもたれかかった。
それぞれの故人を想い、リビングに重苦しい雰囲気が流れる。

「なんだか、むかついてきたぜ」ぼそり、とジョウが呟く。
「俺は好きでクラッシャーやってんだ。誰の指示も受ける気はない」
「そうですな。提示してどうこうなるか分からないのに、頼みごとなんてもんはクラッシャーの面子にかかわる」タロスも頷いて同調する。

「で、でもさあ。一応、俺らたちを生み出した作者だろ?まー言ってみれば、この世界の神様みたいなもんじゃん?」リッキーがおどおどと両手を振る。
「なーるほど。ナタラージャの創造神みたいなもんね。表裏一体。創造神であり、破壊神でもある」
アルフィンが妙に納得顔で頷いた。
「ぜったい破壊神だろ、あの人」
リッキーがぼやいた。





「やめた!この世界の神だろーが、何だろーが関係ない。クラッシャーは神頼みなんて、しないんだ」
ジョウはいきなりソファから立ち上がり、手を広げてかぶりを振った。
「本当ですぜ。無駄なことだ」タロスも巨体を起こした。
生粋のクラッシャーふたりは、ぶつぶつと文句を言いながらリビングを出て行った。
「リッキー、アルフィン。あとは任せる。適当にやってくれ」

「えー!?あ、兄貴ぃ。あらら、行っちゃったよ。どーする、アルフィン?」
「うーん。いいアイデアだと思ったんだけど。でも何だか今までの色々な仕打ちを想い出したら、確かに頭にきちゃったわね」
アルフィンは口元に拳をおき、困ったように首を傾ける。何よりもチームリーダーの同意を得られなかったので、彼女の熱も完全に冷めてきてしまっていた。
「じゃあ、あとはリッキーに任せるわ。適当にまとめて投書しておいてよ」
ソファから立ち上りかけたが、急にリッキーの方へ前屈みになる。
腰に手を当てて、人差し指をつきだした。
「あ、女性ゲストんとこ、外さないでよ!」碧眼を光らせて、念押しした。

アルフィンが長い金髪を翻してリビングから出て行ったあと、リッキーは独り残されて呆然としていた。
「あーもう!何だよ、皆で俺らに押し付けて!」
リッキーは半ベソをかいて髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きあげた。

仕方なしにキボードに向き直る。
「えーと。あまり人を殺さずに、宇宙船や機材の破壊も最小限・・・。でも、そーするとストーリー的にあんましインパクトなくなるのかなあ?確かに『壊し屋』っぽくないか・・・」
ぶつぶつと独り言を云いながら、タイピングを続ける。
「おおっと。女性ゲストキャラのこと入れておかないと、アルフィンに殺されちゃうよ」
彼女の鋭い碧眼を想い出し、大袈裟に肩をすくめる。
「年上で綺麗なゲストキャラは・・・控えめに・・・っと。ん?年下なら、いいんだっけ?」
何て言ってたっけ?と一生懸命想い出そうと、頭を抱えてリッキーはしばし、唸った。

と、突然ちがうことが閃いて、身体を起こす。
「そ、そうだ。前のゲストを呼んでくれてもいいよな・・・。えっと、出来ればミミーともう一度再会して、俺らメインのストーリーを一本。そしてミミーと・・・」
柄にもなく、顔を赤らめながらタイピングする。何故か、小柄な身体をいっそう小さく丸めながら。
その時いきなり、リビングのドアが開いた。
「キャハ!りっきー、コソコソナニヤッテル?」

「うわわっ!」リッキーがソファから飛び上がった。心臓が口から跳ね出しそうだ。
「ノ、ノックしてから、は、入ってこいよっ!」
「キャハハ、何ヲソンナニ慌テテル?状況カラミテ、えっちナさいと検索率87ぱーせんと・・・」
「んなことするかよ!!ドンゴじゃあるまいし!」
リッキーは真っ赤になりながら喚いた。
素早くまとめたレポートにロックをかけ、ファイルを閉じる。

「ちょうどいいや。ドンゴ、このファイル、テラのソノラマ気付で送っておいてよ」
リッキーもこの面倒な事柄から、早く足を洗いたかった。
「そのらま?」ドンゴがキャタピラをシャリシャリいわせながら、横に来た。
「うん。たぶんそこに送れば、ミスタ・タカチホにこれが届くと思うんだよねー」
もう、どうでもよさそうに彼は片手をひらひらと振る。
「んじゃ、よろしく!」リッキーも身を翻して、リビングを出て行った。

「キャハ。四人ソロッテ何ノみーてぃんぐカト思ッタラ・・・」
ドンゴはPCに自分の回路を繋いで、レポートの中身を確認していた。
リッキーのかけたロック解除なぞ、ドンゴには容易い。
「コレハ、ワタクシノ要望モ入レテオカネバ」
ドンゴの頭部にあるLEDランプが点滅する。PCのディスプレイに文字がタイピングされてゆく。

<先代トイイ、コノちーむトイイ、ろぼっと使イガ荒スギマス。みねるばデノ留守番ヤ機体修理バカリデス。
タマニハワタクシめいんノすとーりーヲ一本。ソウソウ出来レバ、ワタクシノオ宝ノタメノ個人ろっかーヲ希望シマス>

LEDランプが緑色に変わり、送信作業が終了した。
ドンゴが満足気にPCから回路を外し、リビングから出て行く。

さて、これからのシリーズに変化は見られるのだろうか?
それは、神『タカチホ』のみぞ、知る。




<END>




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