〜真の碧U〜 | ||
「くそっ!最後のワープで逃げられたかっ」 ミネルバのブリッジでは、タロスがコンソールを拳で殴りつけていた。 ガーベイとミス・ブルー、そして招待されていないジョウを乗せた<ガルドラス>は、近接していた<ルイーダ>の危険を顧みず、突然のワープに入った。 ワープトレーサーのレーダーレンジぎりぎりで待機していた<ディアニクス>と<ミネルバ>は、その重力波データを元に慌ててワープインして後を追った。 しかしながら、<ガルドラス>は宇宙航行法をはなから無視した強引なワープを相次いでくり返して行った。追跡してワープアウトする二隻の宇宙船を尻目に、宇宙空間の安定を待つことなく次のワープへと入ってゆく。 重力波を検知して次のワープアウト先を弾き出す時間のロスは、ワープ回数を重ねるごとに広がっていった。インターバルが長くなればなるほど残留重力波は弱まり、検知が難しくなるのだ。 <ガルドラス>が5度目のワープに入った時、<ディアニクス>のワープトレーサーは次着点を特定できるほどの重力波を拾うことが出来なかった。 「こんな無茶なワープをするとは、やつらも命懸けだな」 <ディアニクス>の艦長アレフ中尉の憮然とした横顔がサブスクリーンに映し出された。 「時間が勝負だということを、あいつらは知っている」 タロスが残留重力波のデータに目を走らせながら呟いた。 「どーすんだよ?タロス。兄貴達だけで海賊から人質と『真の碧』を救出するなんて、どだい無理だよ!」 リッキーが後ろの動力コントロールボックスから身を乗り出して言った。 「ぴィぴィ騒ぐんじゃねェ!そんなこたあ、分かってる」 タロスが振り返りもせず、凄みのある声で言った。恐ろしく機嫌が悪い。 「俺たちはどうあっても、ここで置いけぼりを喰らうわけにはいかねェんだ」 ――それから数時間後、指定時刻どおりハイパーウェーブが<ミネルバ>に入った。 待ちきれないタロスの指が乱暴にスイッチを叩く。 「よう」サブスクリーンには少し疲れ気味の男の顔が映し出された。 「遅せェぞ」 「まあ、そう言うな。これでも年中無休昼夜問わずの連合宇宙軍情報部二課なんだ。こっちの事情も察してくれよ」 タロスの不機嫌な声など気にもせず、バードはひらひらと片手をふった。 「で、分かったのか?」 「まあな。ドギーズ・パイレーツといえば、ここ数年で大規模に展開してきている宇宙海賊組織だ。うちの担当部署には専任チームも居るくらいだ。しかし、本拠地を入れても7つの星系に根城を持つ組織だ。今回の取引場所の指定は、はっきりしないぞ」 「いいから、早くそのデータを送ってくれ!」 「まあ、そう急くな。大体の目星はつけていないと、空振りに終る。俺はその拠点を三つまでに絞れると思っている」 バードの言葉が終らないうちに<ミネルバ>のメインスクリーンにドギーズ・パイレーツのいくつかの拠点データが映し出された。 「本拠地のろくぶんき座宙域には連合宇宙軍の戦艦がダミーで張り付いている。他重要拠点三つもこれと同等のレベルで担当が潜伏配置されていて、そこらへんの動きは逐一入ってくるんだが……さすがにその辺りは目立ちすぎるので、やつらもランデブー・ポイントには選んでいないらしい」 「妥当な線だな」 タロスがメインスクリーンのデータを見上げながら、面白くなさそうに言った。 「と、なると残るは三箇所。ひとつはケフェウス座宙域にあるアミューズメント・プラネットで有名なメメ・サンタナ」 スクリーンに分割表示された星系図のひとつがクローズアップされる。 「あんまり治安はよろしくない惑星だが、出入国にうるさくないので年間を通して観光客も多い。ここにはドギーズの下部組織がギャンブル・アミューズメント・パークを経営している」 そして次の星系図に切り替わった。 「ぎょしゃ座宙域の自由貿易惑星トウ・チオにある衛星ツァスだ。ここも言わずと知れた犯罪シンジゲートの巣窟だが、この衛星にはダミーの貿易会社とロジスティクス・センターがある。ほとんどドギーズの衛星と言っても大袈裟じゃない」 バードがさくさくと説明しながら、手元のパネルを操作した。 「最後は、いるか座宙域にある惑星アンティオスだ。ここでやつらは廃棄物処理会社を運営していて衛星軌道上にクリーン・ステーションを一基持っている」 「どれもこれも、胡散臭いなあ」 リッキーがやおら頭の後ろで手を組んで、呆れたように言った。 「だろ?だが、この中からランデブー・ポイントを選ばなきゃならん。タロス、どう見る?」 バードが面白そうに目を細めて、昔の相棒に視線を移した。 「ふうむ。まず、メメ・サンタナはないな」 「ほう、何故だ?」 「観光客が多いのはカムフラージュにはうってつけだが、出入国が甘いってのは誰にとっても好都合だ。たとえば……」 タロスが上目遣いにスクリーンを見上げる。 「連合宇宙軍の出入りもしやすい」 「だろうな。俺たちが動き回りやすいということは、やつらの行動範囲が狭まる」 「そんなら断然、ツァイスだろ!自由貿易惑星の上ほとんどやつらの衛星だったら、宇宙連合軍の介入も厳しいぜ」 リッキーがどんぐり眼をくるくるさせて、身を乗り出した。 「リッキーもイイ線いくなあ。まあ、何の問題もなければその読みで間違いない筈だ」 バードが大仰に感心し、腕組みして相槌を打った。しかし、それをあっさりとタロスが断ち切った。 「だが、今は問題があるな」 「なんだよ、タロス!俺らがイイ線いってるってのに」 水を差されたリッキーが頬をふくらませた。 「アホ。24時間以内のニュースパックをチェックしてこい、このトンチキ」 「へ?」 「はん、さすがはタロス。ご老体は毎日のニュース・チェックだけが楽しみなもんだ」 「ほっとけ!今、トウ・チオの衛星軌道上は連合宇宙軍とマスコミの船で大混雑なのは、ぎょしゃ座宙域の3歳児だって知ってるぜ」 口をぽかんと開けているリッキーに、バードが丁寧に解説してくれた。 「銀河標準時間で27時間程前にトウ・チオ発の乗客800余名を乗せた旅客船が爆発事故を起こしたんだ。原因は不明、未だ遺体と残留物の回収処理で衛星軌道上は大事になっている。情勢不安な星域のこともあり、テロの可能性や軍の介入など様々な噂が飛び交ってマスコミも大騒ぎだ」 バードは親切にもサブスクリーンに最新のニューズパックを流してくれた。確かに爆発したと思われる宇宙船の残骸の周りに、レスキュー隊や連合宇宙軍の艦船が映っている。 「そんなラッシュの星域を、わざわざランデブー・ポイントにしないだろうよ」 タロスが鼻をならしながら、呟く。 「でも、その最後のクリーン・ステーションの線が確実とは限らないぜ?」 リッキーが口を尖らせながら、不満そうに言った。 「リッキーの言うとおりだ。保証するものなど、何処にもない。が、しかし、賭けてみなければ動けないのも事実だ。さて、どう動く?」 バードが腕組みしたままちらり、とタロスを見た。 「<ミネルバ>と<ディアニクス>はステーションだ。<ルイーダ>には万が一に備えてメメ・サンタナに行ってもらう」 「うちの方でも担当チームへ他二箇所の監視をしてもらうよう通達しておく。ユウキ大尉がお前達に同行するだろう。悪いが、俺は今の仕事がヤマ場なんで、そっちには行けん」 「ああ、これだけの情報と手配をしてくれりゃあ、御の字だ」 「嬉しいねェ、タロスからよもや、そんな台詞が聞けるとは」 バードはわざとらしく拳で涙をぬぐうマネをした。 「苦労した甲斐があったってもんだ。本来なら連合宇宙軍への正式要請が無いと提示できない極秘情報だ。ここまで手配するのもヒヤヒヤものだったぜ」 「しかし、これでドギーズ・パイレーツの首根っこが掴まれば、情報部二課のバード中佐の顔も立つってもんだろう?うまくいけば二階級特進ものだ」 「そんなものにはあんまり興味はないな。それより……」 バードがただでさえ小さな目を細めて言った。 「無事救出されたあかつきには、アリエスからの御礼メールでもくるかな?それも、あの花のような笑顔ムービー付でだ!それだけでも俺にとっちゃあ叙勲レベルだぜ」 モニタの向こうでうきうきと相好を崩すバードを、タロスはふん、と鼻で嗤って言った。 「おそらく、アラミスからメールが入ると思うぜ。おやっさんの渋いボイス付でどうだ?」 「それだけは……かんべんしてくれ」 ほんとうに嫌そうにくしゃり、と顔を歪めたバードを見て、リッキーが腹を抱えて笑い出した。 「それはそうと」 ひとしきり笑い声が止んだのを見計らって、タロスが身を乗り出した。 「その……クリーン・ステーションの名前は?」 バードがすぐに手元の書類に目を走らせて、言った。 「ステーション……Ψ(プサイ)だ」 「何よ!勝手に呼び出しておいて、さっさとブッち切るなんて!」 キャサリンはモニタの前で、その小さな拳を振り回して喚いていた。後ろでは双子の妹たちがダッドの名前を呼んだり、クリスマスに欲しいプレゼントを叫んでいる。 「もう少し色んな情報を聞き出したかったのに……うっさい!」 振り向きざまに妹達を一喝して、黒髪の少女は苛ただしげに指の爪を噛んだ。 「やつらは私達を人質にとって何かと交換するつもりよ。お金?ううん、違うわ……一介のクラッシャーのはした金なんて海賊は興味ない。たぶん、ダッドしか持っていないもの、もしくは扱えないものだわ。……マム!」 「なあに?キャサリン」 ジニーを腕の中であやしていたアリエスが振り返った。 「ダッドが今請けてる仕事は何?」 「さあ、何かしら?ガーベイは仕事の話はあまりしないのよ。私もよく分からないから、聞かないことにしてるの」 アリエスはその華奢な肩を小さくすくめて、にっこりと微笑んだ。 「……マムに訊いたあたしがバカだったわ。あーもう!誰か頼りになる人は居ないの!?」 キャサリンは大きなため息をついて、柔らかい黒髪をぐしゃぐしゃと両手でかきむしった。 「ダッドの後ろに、青い服を着た女の人がいたよ」 「あによ?」 横から聞こえた小さな呟きに、鋭く視線を向ける。 「か、海賊には見えなかったよ……あの人。もしかしたら僕達との交換条件はあの女の人かもしれない」 姉貴にひと睨みされて、弟のクラウスは気弱そうに答えた。 アリエスの容姿をそのまま引き継いだような黒髪、碧い瞳の姉弟だったが、性格は正反対のようだ。 「青い服の女……ね。でもそんなに簡単に交渉が成立してあたし達が解放されるとは思えないわ。顔を見られた人質を海賊が無事に帰すと思う?ダッドとは別部隊が救助に動いてるかしら?」 「たぶん海賊からは、連合宇宙軍への通報は禁じられてると思うけど。でもダッドなら何らかの手を打ってから乗り込んで来る……と、思う」 「そうね、じゃないと困るわ」 キャサリンはあっさりと言い切って、部屋の隅にあるデスクへと近づいた。 「このコンピュータから情報を知りたいわ。ここが何処で、どんな建物に収容されているのか。救助部隊と何とか連絡をとってスムーズに脱出しないと、足手まといになるだけだもん」 その時、ドアのロックが外れる音がした。 「注文の品を持ってきてやったぜ」 銀色のポットを持った浅黒い若い男が、部屋の中へ入ってきた。 「あら、ご親切にどうもありがとう」 アリエスが振り返り、花のように微笑んで礼を言った。 「い、いや……別に。な、何か他にして欲しいこととか、あるか?」 若い男はほんのりと頬を染めながら、きょろきょろと部屋の中を見回した。 「おにーさん」 双子の妹のジーナが若い男の上着の裾をひっぱった。 「あのコンピュータ動くようにして!ゲームがしたいの」 「もうね、サラとジーナ、退屈で死んじゃいそう!」 双子に両手を取られた男は一瞬ためらったが相手が幼い少女達ということもあり、言われるがままに自分のキーで端末を立ち上げた。 「いいか、このゲーム以外いじるなよ。他のファイルをは開いたりしちゃ絶対ダメだ」 「わーい!ありがとう」 「うん、他のファイルなんて分かんないもん!」 子供達と再び女神のようなアリエスにお礼を言われて、若い海賊は上機嫌で部屋を後にした。 「よくやったわ。サラ、ジーナ」 キャサリンが双子の妹を手放しで褒めた。 「サラ、これに触りたくてうずうずしてたの!」 と言うが早いか、サラは次々とキーボードを打ち始めファイルのロックを開いてゆく。 クラッシャー養成スクールでは、早くから宇宙生活に必要不可欠なコンピュータの知識も叩き込む。 特にサラのコンピュータに関しての能力は、教師たちも唸らせるものを持っていた。 「ここ何処なのー?なんていう惑星?」 ジーナがサラと顔をくっつけるようにしてモニタを覗き込んでいる。 「惑星に降りてないかも知れないわ」 双子の妹の後ろに立つキャサリンがぼそり、と呟いた。 「連れてこられた船からは移動したけれど。大気圏突入した感覚が、無かったもの」 「……そうだね。もしかしたらどこかの衛星基地か宇宙ステーションの中かもしれない」 クラウスも傍にきて、モニタを覗き込んだ。 「そうしたら、衛星基地かステーション内部地図を探すんだ。広大な惑星よりも、脱出経路が限定されて動きやすいかもしれないよ」 「それはどうかしら?動きやすいかどうかは、救出にきてくれるヤツの腕次第よ」 キャサリンが大人びたふうに背すじをのばして、腰に手をあてた。 「ね、どう思う?」 「え?」 「ダッドの最後の台詞よ。今年のクリスマスは一緒に過ごそうですって?今までそんなこと一度も無かったのに、おかしいと思わない?」 「キャサリン……ちょっと待って」 「何よ?」 クラウスは少女のような白い優しい顔を俯けて、一心不乱に何かを思い出している。 「あ、そうだ!その後の台詞だよ」 「だから、何よ?」 姉貴がおっとりとした弟の台詞に、焦れた。 「おまえたちの兄貴も一緒に……って、言ってなかった?」 「……兄貴?」 姉と弟の同じ色の瞳が、かち合った。 「300秒後にΨ(プサイ)とのドッキングに入る。全員、セイフティシートに身体を固定しろ」 パーソナル・キーに接続されているイヤホンから、アナウンスが入った。 ――ドッキングだと? ジョウは薄汚れたオリーブグリーンのつなぎに腕を通しながら、すばやく目の前のモニタをチェックした。 海賊船<ガルドラス>へ侵入したジョウは格納庫から一歩も出ていなかった。人質とのランデブー・ポイントに到着するまでは、無闇に動いて発見される危険を冒す訳にはいかない。 忍び込んだ緊急用コントロールルームからはガーベイ達が乗ってきた<ブルー・レイ>が見える。その機体を挟んで二人の海賊が守衛として立っていた。長時間の守衛任務に彼らの注意が散漫になってきていることにジョウは気付いていた。 そのうちのひとりが、また煙草を吸いにコントロールルーム脇の休憩室に入ろうと歩み寄ってきた。 ドアの前を通り過ぎたと同時にジョウはルームから飛び出し、背後から海賊の首へ手刀を入れた。叫び声を上げる間もなく崩れ落ちる身体を受け止め、コントロールルームへと引きずり込む。 海賊の着ていたつなぎを剥ぎ取り、所持品を確認した。パーソナル・キーと通信用のイヤホンを早速頂戴し、身につける。 その直後に艦内アナウンスが入ったのだ。 ――ドッキングってことは……ランデブー・ポイントは宇宙船か?それとも、ステーションか? ジョウはコントロールルームのコンピュータを、奪ったパーソナル・キーで開いた。 その時、左耳に装着していたイヤホンから突然男の声が響いた。 「アガリ!アナウンスを聞かなかったのか?早くEルームへ来い!」 「ああ、聞こえてる」 ジョウは取り上げたパーソナル・キーのネームを確認し、コントロールルームの窓から格納庫の入り口で止まっている人影を見遣った。Eルームは格納庫の外にあるらしい。 「一服してから行く。間に合わなかったら緊急用シートでやり過ごす」 「ふざけた野郎だ。勝手にしな」 イヤホンの向こうから呆れたような含み笑いが聞こえて、通信が切れた。 「……だとよ、アガリ」 ジョウは足元に転がっている海賊を見下ろしてニヤリ、と笑った。 鈍い衝撃が数十秒間続いた。 コンソールのLEDランプがいくつかグリーンに変わり、モニタに『ドッキング完了』のメッセージが表示される。 ジョウは艦内図を表示し、ドッキングポートへの通路を確認した。格納庫からそう遠くはない。 「野郎ども、お待ちかねのリゾート地へと繋がったぜ。ミス・ブルーを素敵なビーチへご案内して、俺たちも楽しいバカンスへ突入だ」 呼び出し音なしでいきなり、イヤホンから低いだみ声が響いた。 「全員降ろしてやりたいとこだが、悪いがそうもいかねェ。とりあえずブリッジにはハモンとサバ。格納庫にはそのままサイコビッチとアガリが残ってくれ」 「了解」 ジョウが小さく呟いた。 ドッキングポートには一台のカートが迎えに来ていた。 ウェイザーに促されて、ガーベイとミス・ブルーは後部座席に座る。その後ろのリア・バンパーにライフルを持った海賊がひとり腰掛けた。ウェイザーは運転手の右隣だ。すぐにカートが走り出した。 ミス・ブルーが思わず、後にした<ガルドラス>を振り返った。緩やかなウェーブを描く金の髪が、風に流れる。 ――ジョウは……無事かしら。 「心配するな」 ガーベイが前を向いたまま、小さく呟いた。 アルフィンがはっとして隣のクラッシャーの横顔を見る。が、すぐに小さくうなずき、毅然と前に向き直った。 「ドッキングしたのは……ステーションか?宇宙船じゃないようだな」 ガーベイが油断なくポートの細部に目を走らせながら、ウェイザーに訊く。 「ご名答。俺達の素敵なリゾートは、実はでっかいクリーン・ステーションだ。銀河系のあらゆるガラクタを高熱で燃焼処理する。人間なんか放おりこんだら、骨も残らず一瞬で溶解出来る」 ウェイザーは冗談ともつかぬ話を面白そうに喋った。 「もっと夢のリゾートを予想してたんだがなあ」 「知らねェのか?大昔、人類はゴミ捨て場を『夢の島』と呼んでいたそうだぜ?ここはまさに『夢』がいっぱい詰まっている。そしてもうすぐ、『真の碧』が俺たちにイイ夢をたっぷり見せてくれるだろうさ」 鼻歌でも出そうなウェイザーを横目に、ガーベイが大袈裟にため息を漏らして、腕を組み直した。 「俺は早くこの悪夢から、目醒めたいもんだぜ」 <ミネルバ>と<ディアニクス>はぎょしゃ座宙域タルドーの星域外縁にワープアウトした。 「辺鄙なところだ」 タロスが不満げに鼻をならしてチャートを眺める。 「すぐに……第五惑星アンティオスへ向かいますか?」 <ディアニクス>のアレフ中尉が画像なしの通信で訊いてきた。 「いや、まずはここで連合宇宙軍と合流する予定だ。バードが手配してくれている筈なんだが……」 「キャハハ。通信ガハイッテマス」 「噂をすれば……か?」 タロスが通信回路をオンにした。 「こちらは連合宇宙軍情報部第二課所属機動部隊の<アカツキ>です。バード中佐より指令を受けてきました」 メインスクリーンに映し出されたのは、切れ長の目を持つまだ30代と思しき黒髪の男だった。 「聞いている。こちらはクラッシャージョウの船<ミネルバ>、俺はパイロットのクラッシャータロスだ」 「私は<アカツキ>の艦長、ユウキ大尉。クラッシャータロス、あなたの噂はバード中佐からよく伺っています。凄腕のクラッシャーと一緒に仕事が出来るとは光栄ですよ」 「その感想は、このヤマが終わるまで取っておいてくれ」 タロスがその小山のような肩をすくめて言った。 「早速だが、事態は急を要している。ステーション・Ψ(プサイ)の動きはどうだ?」 「第5惑星アンティオスの衛星軌道上を毎秒10キロメートルの速度で周回中。今のところ軌道・速度に変化なし」 「ステーションに近接したり、ドッキングした船は居ないか?」 「私たちがこの宙域に来て約1時間経ちますが、その間に不審な動きは見られませんでした」 「……この線はハズレか?もしくは既に到着しているのか?」 タロスが苛ただし気に拳を握り締めた。 「メメ・サンタナに向かった<ルイーダ>に状況を確認してみたらどうだい?あとツァイスの方も。もしかしたらそっちに現れる可能性もあるんだろ?」 「むう」 リッキーの提案にタロスは判断を迫られていた。ここがハズレであった場合、貴重な時間のロスは人質とジョウ達の命を危険にさらすことになる。 と、その時メインスクリーンに映っているユウキ大尉の背後が騒がしくなった。大尉が後ろを振り返り何事か指示し、すぐにモニタに向き直った。 「たった今、<ガルドラス>という船からの通信を傍受しました。距離が離れすぎていて内容ははっきりしないが、ステーション・Ψと交信しているようです」 「ビンゴだ!助かったぜ」 タロスが唸るように言って、エンジンを始動させた。 「リッキー、動力全開だ!アレフ中尉、ユウキ大尉、すぐにステーション・Ψへ向かうぜ」 <ミネルバ>は轟音に身を震わせて、弾かれたように転身した。 「了解だ。<ルイーダ>へ連絡をとる」 「こちらはバード中佐に一報を入れておきます」 それぞれの艦長も素早く対応する。タロスが惑星アンティオス軌道上の光点を確認した。 「こちらも打ち上げ花火に、遅れる訳にはいかねェんだよ」 ジョウはコントロールルームで出来るだけの情報を閲覧していた。ステーションに侵入し、人質を救出して速やかに脱出しなければならない。 <ガルドラス>の船内図とステーション・Ψの内部図を頭に叩き込んだ。 「おい、いつまで一服してるつもりだ?」 いきなり背後のドアが開いた。もうひとりの守衛のサイコビッチだった。ジョウがアガリのつなぎを着ているため、侵入者だとはまだ気付いていなようだ。 ジョウは振り向きざまに相手の顔面を狙ってエルボを繰り出した。が、さすがに訓練された海賊である。ジョウの肘を両手でブロックし、咄嗟に蹴りを繰り出してきた。 ジョウは横へ跳びすさり、間一髪これを避ける。 「てめえ、どっから入りやがった!」 サイコビッチは喚きながら、腰のホルスターに手をやる。しかし、それよりも早くジョウのレイガンが海賊の胸を貫いていた。 床に転がっているアガリの上にサイコビッチが倒れ込む。 「悪いが、仲良く寝ててくれ」 ジョウはそう呟くと踵を返して、コントロールルームから飛び出して行った。 「どうした?」 ドアの外に守衛で立っていた若い海賊が、訝しげに入ってきた。 「ジーナの様子がヘンなの!」 キャサリンが蒼い顔をして、海賊の腕をひっぱる。 見ると壁際のベッドに双子の妹の方が寝かされて、アリエスが付き添っていた。 「ほんの10分くらい前から腹痛を訴えて。もともと神経質な子だから、お腹は弱かったのだけれど、こんなに苦しむなんて……」 アリエスは涙を浮かべながら、身体を丸めて呻いているジーナの背をさすっていた。 「ほ、ほんとか?ちょっと待て、ドクターを呼ぶ」 海賊は慌てて壁のモニタを操作するが、何故かノイズばかりで画面はブラックアウトしたままだ。 「んもう、何やってんのよ!ジーナが死んじゃう!」 サラが海賊の膝をバンバン叩いた。 「こ、こら、わかった、止めろ。い、今すぐドクターを呼んでくるから、じっとしてろよ!」 そう言い残すと、海賊は部屋を飛び出して行った。 「代わりの守衛も呼ばないのね。訓練が甘いヤツは、こういう愚行に出るわ」 キャサリンがぺろりと小さな舌を出して呟き、後ろを振り返った。 「マム、ジーナ、会心の演技だったわよ!」 「あら、知らなかった?マムは大学時代演劇部だったのよ?」 寝ていたジーナを抱きしめて、アリエスはにっこりと微笑んだ。 「それは初耳だわ」 キャサリンは小さな肩をすくめて思わず笑った。そして傍らの弟の方を振り返る。 「さあ、作戦開始よ。どう?クラウス。内部地図は頭に入れた?」 「う、うん。大丈夫だと思う」 「ECMの装置の場所を確認して、停止させるのよ。壊しちゃっても構わないわ!妨害電波を阻止できれば、クラッシャー専用の周波数で、ダッドと連絡が取れる」 「う、うん……」 「しっかりしなさい!あんたのエンジニア系の能力はトップクラスなのよ。あたしなんか数字見ただけでクラクラしちゃうのに」 キャサリンは弟の華奢な肩を抱き寄せて、背中を軽く叩いた。 「あんたに足りないものは自信だけ。私達みんなで力を合わせて脱出するのよ。いい?私はあんたの能力を信頼してるわ、自分に自信を持ちなさい」 「姉さん……」 クラウスは同じ瞳の姉を見上げて小さく頷き、踵を返して部屋を出て行った。 アリエスが慌てて追いかけドアから身を乗り出して叫んだ。 「クラウス!もし海賊さんに会ったら”迷子になりました”ってちゃんと言うのよ!」 その後ろで、キャサリンが大きくため息をついた。 クラウスはサラが見つけた内部地図に従って、狭い廊下を歩いていた。 割れるように鳴っている心臓を落ち着けるように、一歩一歩足を踏みしめながら前に進んむ。 いくらクラッシャー養成スクールに通っているとは言え、本物の作戦行動は初めてなのだ。 いつも僕を叱ってばかりいる姉さんが、僕の能力を認めて、信頼してくれている。 明朗活発・成績優秀で誰からも人気のあるキャサリンに、クラウスは羨望と誇りと、そして少しばかりの引け目を感じていた。 容姿はとても似ているのに、中身が全然追いついていない。男女が逆であれば良かったと、あからさまに噂する者が居るのも、クラウスは知っていた。 ――マムはいつも「あなたはアナタなのよ。それがいちばん大切で最高なこと」と笑って言ってくれるけど。 そんなとりとめない事を考えながら、地図のとおりにある通路を左に曲がった。 と、二人の人影がドアを開けて立ち話をしている。慌ててすぐ右にあった開け放しの小さな部屋に飛び込んだ。どうやら休憩室のようだ。息を殺して話し声が止むのを待つ。 しかし、こともあろうにその話し声はだんだんと近づいて来ていた。 ――どうしよう?ここに入ってくるのかしら? もう、クラウスは動転してしまって膝がガクガク震えだした。 見つかったら、どうしよう。ええと……”迷子になりました”だっけ? そんなことをぶつぶつ呟いている間に、その二人組みが休憩室に入ってきた。 「まあ、座ってゆっくり話そうや」 「で?そのジャスパー・ダイアモンドをおめェは拝んだのかい?」 背の高い赤毛の男と中肉中背の黒人男が、入り口近くのスツールに腰掛けて一服し始めた。 「いいや。確認したのはウェイザーの兄貴と、あの生っちろいザウンダウンのドクターだけだ。まあ、ブツは本物だったらしいからな。兄貴はすっかり上機嫌だ」 「だろうな。もうここまで連れてくれば、お宝はこっちのもんだ。人質を盾にして、ケースを開けさせていただきさ。後は人質もろともあのクラッシャーもコアの溶鉱炉行きだ」 「小さいチビがゴロゴロ居たが。マダムの方もキレイな女だったなぁ、可哀相なもんだ」 「それより、あのミス・ブルーが勿体ねェ。すこぶるつきの美人だ。うまくすりゃあ、あれもイイ値がつきそうなんだが」 「売り飛ばすにゃあ、女は足が付いて難しい。まあ、オヤジへのいい手土産にはなるかもしれんが」 海賊達は下卑た笑いをして、煙を盛大に吐き出した。と、そこで二人の動きが止まり、目を見合わせる。 「聞いたか?」耳についたイヤホンを手で押さえている。 「ああ、不審船が領海に入ってきたって?上へ行くぜ!」 海賊達は慌しく煙草をもみ消して、休憩室を出て行った。 海賊達が部屋の入ってきたと同時に、クラウスは大きな手で口をふさがれ、壁の凹みへと連れ込まれていた。 咄嗟のことで動転し、あわてて手足をばたつかせる。 「じっとしてろ。何もしない」 後ろから低い声がささやいた。クラウスを抑える手の力は加減していて、悪意は感じられなかった。 クラウスは黙って大人しくした。 海賊達が慌しく出て行ったところで、大きな手が口から外された。 「はあー。あ、あの僕、迷子になちゃって……」 クラウスは背中を冷や汗でびっしょりにしながら、ずっと口の中で反芻していた台詞を言った。 後ろから、くくっと笑う声が聞こえた。 「それを言うために、見つかってもいない海賊に話しかけようとしてたのか?」 クラウスはその優しい声に思わず振り返った。 くたびれた帽子を目深にかぶり、オリーブグリーンのつなぎを着た男が壁にもたれて座っている。 「あ、あの……海賊さん、じゃないの?」 「身なりは海賊さんから借りてきたが」 ジョウは帽子を取って、悪戯っぽく微笑んだ。 「中身は根っからのクラッシャーだよ。君は……クラウスか?」 「ジョウ……兄さん!?」 クラウスが思わず、ジョウの首にしがみついた。 「お、おい……」 「僕……きっと、きっと助けに来てくれると思ってた!だって、ダッドが今年のクリスマスは兄貴と一緒にって言ってたから、たぶんジョウ兄さんが来てくれるって、キャサリンとも話してたんだ……」 「わ、わかったから、ちょっと手をゆるめてくれ」 突然、少年に飛びつかれてジョウはしどろもどろに言った。 「あ。ご、ごめんなさい!ぼ、僕、気が動転しちゃって……」 「いや……大丈夫だ。それより皆は無事か?どうしてひとりだけ、部屋から出てきた?」 クラウスはどもりながらも、今までの経緯とキャサリンの立てた作戦を話した。 「ふうむ。よくそこまで調べて作戦を立てたな。さすが、ガーベイの子供たちだ」 ジョウが感心して言った。 「だが、状況がはっきりしない時点での行動は危ないぜ。おまけにお前達には武器もない。無茶なことをするとマムが哀しむぞ」 クラウスがアリエスの心配そうな顔を思い出して、思わず頷いた。 「しかし、まずECM装置を叩くというのはいい選択だ。とりあえずそこに向かいたいが、マム達は大丈夫だろうか?」 「うん、キャシー姉さんが居るから大丈夫だよ」 「頼もしいクラッシャー達だ。じゃあ、こちらも作戦開始だ!」 ジョウはクラウスの頭を軽く叩いて、立ち上がった。 ECM装置は地表近い階層の一室に設置してあった。 クラウスの暗記してきた地図によると、監禁されていた部屋は地下4層のところにあるらしい。 海賊達が居るメインの中央コントロールルームは地下3層にあった。 危険回避のため、エレベータは使わなかった。一番細い緊急用の避難階段を使用した。 女子供を監禁しているので甘く見ているのだろう、階段付近に守衛は居なかった。 ジョウはアガリから頂戴してきたイヤホンをまだ付けていた。これで海賊内の交信が逐一手に取るように分かる。 「不審船が入ってきたと言ってたな。タロス達が追いついてきたか?」 ジョウが油断なく階段の上方を伺いながら、呟いた。 「他にも助けに来てくれてるの?」 傍らを息を切らせて昇るクラウスが、目を輝かせた。 「もちろんだ。クラッシャーは仲間の絆を大事にする。ガーベイの家族は俺達クラッシャーみんなの家族だ。けして見捨てたりはしないさ」 「あの……青い服の女の人は、大丈夫なの?あの人がきっと僕達との交換条件なんでしょ?」 クラウスはずっと気になっていた事柄を、おずおずと口にした。 しかし、その言葉を聞いてジョウの表情が、わずかに曇る。 「彼女も実はクラッシャーなんだよ、クラウス。危険を顧みず、あの役を買って出た。彼女には……指一本触れさせない」 震えるほど握り締めたジョウの拳を見て、クラウスは少し驚いた。 ――きっと……ジョウ兄さんの大切な人なんだ。 地下2階層に上がってきた。 非常階段の扉を細く開けて様子を伺おうとした時、その扉が勢いよく引かれた。 咄嗟にジョウがクラウスを壁の凹みに突き飛ばした。 「おう!悪りィな、吃驚させて。何処へ行く?」 姿を現したのは、細身だがしっかりとした身体つきの赤毛の男だった。 「いや。どうやら不審な船が入ってきたようだから、武器の点検にな」 ジョウは帽子を目深にかぶり、堂々と言い切った。こんな時にヘンに言い淀んだりするとかえって怪しまれる。 「うははは!<ガルドラス>の野郎たちはマジメだなぁ!どれ、俺もつきあうぜ」 と踵を返しかけた男がふと、振り返った。 「おまえ、名前なんだっけ?見ない顔だな」 男の台詞が言い終わらぬうちに、ジョウが目にも止まらぬ速さで前蹴りを繰り出した。 不意打ちをくらって男の身体が廊下の壁に激突する。すかさずジョウが追い討ちをかけて、男の腹に拳を叩き込んだ。 血ヘドを吐きながら、男が床に崩おれる。 「出てきていいぜ、クラウス」 ジョウが階段の入り口に呼びかけると、クラウスはおどおどと、姿を現した。そして倒れている男の姿に目を丸くする。 「ECMの制御室はどっちだ?」ジョウは構わず、鋭く少年に訊いた。 「え?あ、あの、いちばん左奥の部屋」 「よし!行くぞ」 二人は駆け出して、ECM制御室へ向かった。 連合宇宙軍所属<アカツキ>のブリッジでユウキ大尉は声を張り上げていた。 「断固として、私はそんな作戦を認めることなど出来ません!」 サブスクリーンに映るタロスはやれやれ、と言った風情で肩をすくめた。 「何も違法なことをする訳じゃない。ただ連合宇宙軍の権力をちょいと行使して、臨検を名目にステーションに侵入するだけだ。ウラが海賊とは言え、書類上はきちんとした廃棄物処理会社の形を取っている。その施設に臨検が入ることなど、珍しいことでも無いだろう」 「私は違法云々を言ってる訳ではないのです。人質が居るにもかかわらず、そんなあきらかに海賊を刺激するような行為をすることが問題なのです。連合宇宙軍は海賊に屈することはありませんが、人命救出を最優先に行動します!」 ユウキ大尉は顔を真っ赤にして、テキストに書いてあるようなお決まり文句を並べ立てた。 「クラッシャーだって人命救助が最優先だ!」 タロスがコンソールを拳で殴った。 「しかし、悠長にやつらの出方を待っている訳にはいかねェんだ!こうしている間にも人質や交渉人のガーベイ、ミス・ブルーそして潜入しているジョウの身に危険が降りかかっている。ドギーズは過去の履歴から見ても、人質を無事解放している例は少ない。内情を少しでも見たヤツは遺体で発見されるか、行方不明だ。無事に帰ってきたヤツが殆ど居ないので、本当に拉致されていたのかも闇の中、それで追及出来ていないんだろ?」 ただでさえ凄みのある顔つきのタロスの迫力に、ユウキ大尉も黙るしかなかった。 「おそらく臨検が入ったと分かれば、それを機にジョウかガーベイが何らかの行動を起こす。やつらの注意を分散すればするほど、混乱に乗じて人質の救出の可能性も高くなる」 「あながち無謀な作戦とは思えないが?ユウキ大尉」 ずっと黙っていた<ディアニクス>艦長、アレフ中尉がおもむろに口を開いた。 「まあ、確かにこのタイミングで連合宇宙軍の臨検が入れば、やつらは通報が入ったと勘ぐるだろう。しかし、それを証明するものは何も無い。ガーベイがうまくその場をやり過ごせば、やつらとてこの臨検を拒む理由は無い筈だ」 「…………」 「外からの攻撃よりも、内から攻めていった方がやりやすい。状況が分かるし、潜入してる仲間とコンタクトも取れる。いざとなったらあんなステーション、内側から爆破すればひとたまりも無い」 タロスが凄惨な笑みを浮かべて、追い討ちをかけた。 しばらく黙っていたユウキ大尉が、大仰なため息をついて言った。 「バード中佐から、話を聞いてはいたんです」 「?」 「凄腕には違いないが、あいつらクラッシャーと組むなら、今までの常識を一切捨ててからにしろ、と。確かに連合宇宙軍のセオリーなんて天から無視している作戦です。そう、クレイジーだ!」 まだ若い大尉はブツブツとぼやきながら、かぶりを振った。 「分かりました!私も情報部配属以来、クッラッシャーあがりのバード中佐に鍛えられてきたクチです。彼が捨てろというならば、私の全てを捨てましょう!」 切れ長がの黒い瞳を熱っぽく潤ませ、ユウキ大尉は拳を握りしめた。 「い、いや……何も、全部捨てなくても」 急に熱っぽく語り始めたユウキ大尉に、タロスがうろたえた。 「うははは!いい心がけだ、切り替えは早いのが肝心だ。若いと言うのは全く羨ましい」 もう一方のサブスクリーンから威勢のよい笑い声が聞こえてきた。 まだ四十後半のアレフ中尉まで、何故かノッてきているようだ。 「なーんかさあ、妙な方に話がいってない?」 <ミネルバ>のブリッジではリッキーが頬杖をついたままぼそり、と呟いた。 「なに!?連合宇宙軍の船が抜き打ちの臨検だと?いきなり領海に入ってきやがったと思ったら、何抜かしやがる!」 ステーション・Ψの中央コントロール室では、ウェイザーそのスキンヘッドから湯気を出さんばかりの勢いで、喚いていた。 「<アカツキ>艦長の説明によると、近頃クリーン・ステーションの汚染事故が相次いでいるので、先月くらいから実施しているとか……」 「うるせェ!そんなの口実に決まってる」 ウェイザーは部下の言葉を遮って、後ろに居るクラッシャーを鋭く振り返った。 「まさか、おまえが……知らせたのか?」 「知らんね」 ガーベイはその詰問をあっさりと跳ね返した。 「俺達は言われたように、貴様たちの指示どおりに動いてきた。大体、連合宇宙軍に報せてれば『真の碧』の本物は持ち出せないし、こんなあからさまな行動には出ないだろうよ。お上はなんたって、人質の生命の安全が最優先だ」 「ふ……むん」 ガーベイのしれっとした受け答えに、ウェイザーが唸る。 「この臨検が本物だったら……断ったらマズイですよ、キャップ」 傍らの通信士がおどおどと口を出した。 「逆に不審に思われて、艦隊でも呼ばれたらそれこそ……」 「もういい!」 ウェイザーはキャプテンシートから立ち上がり、怒鳴った。 「ご要望どおりにさせてやろうじゃないか。しかし、ドッキングポートはサイドを使わせろ!メインは大型廃棄物運搬船が入っていて使えない、と言え」 慌てて受け入れ準備に奔走する海賊達を横目で眺めながら、ガーベイは心の中でほくそ笑んだ。 ――タロスめ、えらい大胆な賭けに出てくれたな。しかし、この混乱は充分に利用できるぜ。 「客人たちには臨検が終わるまで、部屋に篭っててもらおう。いいか?軽はずみなコトはするなよ?気の荒れェ連中が、何をするか分からんぜ」 ウェイザーは鋭い目つきで念を押すと、近くの若い海賊にふたりを連れていけ、と顎をしゃくった。 ガーベイ達がブリッジを後にしたその直後、イヤホンから呼び出し音なしの通信が入った。 「ウェイザーの兄貴!格納庫でアガリとサイコビッチがヤられてた!」 <ガルドラス>に残してきた部下が、喚いている。 「なに!?誰だ?」 「わからねェ。いつの間に乗り込んだのか……今、艦内を見てきやすが、応援を来させてはくれませんかい?」 「う……」 ウィエザーが言葉を呑みこんだ。人質とガーベイ達の見張りの他に、連合宇宙軍の臨検にも人が取られる。 しかし、この時点での不審者の侵入は、迂闊に見過ごすことは出来なかった。 「わかった。サイとクランプをやるから、徹底的に探せ」 と、傍らの通信士がウェイザーの方に向き直り、自分のイヤホンを指差して外してみせた。 「なんだ?」 「しっ!」と通信士は慌てて人差し指を口に当てる。 「キャップ、アガリのパーソナル・キーがステーション内で動いてます。どうやらネズミがキーを身に着けて行動しているようです」 ウェイザーの目が残忍な光りを帯びた。おもむろにイヤホンと付属のマイクを外す。 「よくやった。すぐにそれをトレースしてネズミを捕まえろ。生け捕りが無理ならその場で殺っても構わん」 「はっ」 <ガルドラス>へ向かう予定だった海賊ふたりが、武器を手にしてブリッジから駆け出して行った。 「待ってろ。今これでドアごと吹き飛ばしてやる」 ジョウが背負っていたクラッシュパックを開けて、小型バズーカを手早く組み立て始めた。 「すごいや。テキストで見たとおりだ」 隣でクラウスは感心したように目を丸くしている。ジョウは思わず噴き出しそうになった。 と、いきなり乱れた足音がした。 「いたぞ!」 その声も終わらぬうちにレーザーのパルスが、ジョウ達の周りに集中する。 「ちっ」 ジョウがクラウス引き倒し、ドアの凹みに身を隠した。 レイガンで応戦するが、いかんせんここは廊下の突き当たりだ。遮蔽物が無く、分が悪い。 じりじりと近づいてくる敵の射撃が正確になってきている。 突然、伏せているクラウスの目の前に何かが音を立てて転がってきた。 「クラウス!投げ返せ!」 ジョウがレイガンを撃つ手を止めず、怒鳴る。 クラウスもそれが手榴弾であることは理解出来た。が、しかし身体が凍り付いたように動かない。 「くそっ」 ジョウがクラウスの前に飛び出して、手榴弾を蹴り飛ばした。 数コンマ零秒のタイムラグで、手榴弾が空中で爆発する。咄嗟にジョウはクラウスの身体に覆いかぶさった。 廊下の壁の一部がめちゃくちゃになった。黒煙が上がり、内部の配線がショートして火花が散っている。 「う……」 ジョウが身じろぎして、わずかに顔を上げた。 黒煙の向こうに人影が動いたのが、分かった。海賊のふたりが仕留めたと思ったのだろう、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 ジョウは瞬時に身を起こし、レイガンを乱射した。悲鳴と共に、床に転がる重い音が響いた。 そのまますぐに立ち上がろうとしたジョウの身体がぐらり、と揺れた。 たまらず膝を折り、床に手をつく。襟首に生温かいものが伝う感触があった。血だ。どうやら手榴弾の至近距離の爆発で、後頭部を負傷したようだった。 隣でクラウスがおそるおそる顔を上げた。と、ジョウの姿を見て、はっとして飛び起きる。 「ジョウ兄さん!血が……」 「大丈夫だ」 ジョウがふらつきながらも、先ほど組み立てた小型バズーカを手に把り、構えた。 「壁の凹みに隠れてろ」 バズーカ弾がECM制御室のドアを吹き飛ばした。 ECM制御室を破壊したふたりは、地下二階層から移動していた。 「くそ、見つかるのが早いな」 息荒く呟くジョウに、クラウスがおどおどと答えた。 「あの……こ、これは僕の予想だけど。海賊さんに借りてきた服や帽子にトレースできる何かが付いてるんじゃないのかな?」 ジョウは驚いて傍らの少年を見る。 「パーソナル・キーか!うっかりしてたぜ」 手早くキーとイヤホンセット、そしてつなぎの服を脱ぎ捨てて、途中の部屋に投げ入れた。 そして地下三階層の途中にある、メンテナンス室に転がり込む。 怪我は、とりあえず止血はしていたが、さすがのジョウも息が上がっていた。 「これを使えばいいんだよね?」 クラウスは持ってきたクラッシュパックを開け医療キットを取り出し、てきぱきと怪我の手当てを始めた。 「手際がいいな。スクールで習ったのか?」 「うん。僕、こういうの……ちょっと得意なんだ」 クラウスは恥ずかしそうに笑った。が、手当てをしているうちにみるみるその碧い目に涙が浮かぶ。 「ジョウ兄さん……ごめんなさい、僕が足手まといになっちゃって」 「気にするな」 「で、でも、僕があれをすぐに投げ返せば、こんな怪我をすることも……」 「クラウス。おまえはまだスクールに通っている生徒だ。クラッシャーじゃない。あんな状況下で気が動転するのはあたりまえなんだ。プロの俺がフォローし切れなかったのが悪い。ただ……これだけは言っておく」 ジョウが顔を上げ、少年の目を真っ直ぐに見つめて言った。 「もし、クラッシャーとして生きてゆくつもりがあるのなら、何があってもためらうな。俺達の世界では、一瞬のためらいが命取りになる」 ジョウの真剣な眼差しに少年はごくり、と唾を呑み込んで頷いた。 そんな姿を見てジョウはふっと笑い、クラウスの頭に手をおいた。 「おまえは……本当にクラッシャーになりたいのか?この仕事は危険も多いし、休暇もあまり取れない。遊ぶ時間もあんまり無いぜ?」 「僕……ほんとうは、まだ決めてないんだ」 クラウスが自分の手をじっと見つめながら、答えた。 「キャシー姉さんや妹達は、もうクラッシャーになるって決めてるみたいなんだけど。僕、力も無くてケンカは弱いし、口もキャシー姉さんにはてんで敵わないし、なんだかすぐめそめそしちゃうし……。たぶん僕、クラッシャーには向いてないんだよ。でも周りの人は僕がダッドの跡継ぎだと思ってるみたいなんだ。ダッドも僕がスクールに入った時、とても嬉しそうだった」 「そりゃ、違うな」 「え?」 「クラッシャーはただケンカや口が強くて、泣き虫じゃなければいいって訳じゃない。肝心なのは状況をよく見て判断できる能力だ。おまえはさっき、俺がトレースされてることに気付いた。こんな状況の中でも周りをよく見て、冷静に分析できる能力を持ってる証拠だ。それはクラッシャーにとってとても重要なことだぜ?」 クラッシャーの中でもトップクラスのジョウに褒められて、クラウスは嬉しさに頬を染めた。 「それに……ダッドはおまえのことをとても愛してはいるが、クラッシャーという枠に押し込めたりする気はない。スクールで身体と心を鍛えた後は、自分の好きな事を見つけてくれればいい、と言ってた」 「ほんとうに?」 「ああ。親の気持ちって……子供にはなかなか伝わらないもんだな」 ふっと笑って、ジョウは自嘲気味に呟いた。 「もっと自分に自信を持っていい。おまえはオマエだ。それがいちばんで、そしてそれが最高のことさ」 クラウスはジョウの台詞に目を丸くした。 「ジョウ兄さんって……マムと同じこと言うんだね!」 嬉しさのあまり、またクラウスはジョウの首にかじりついた。 ジョウはたまらず、床に倒れて呻いた。 中央コントロール室と同じ階層に、ガーベイとミス・ブルーは監禁されていた。 部屋は一体成形でもちろん窓も継ぎ目も無い。ドアの前には二人の見張りが付いていた。 アルフィンが小さく息を吐いた。 「悪いな……長丁場で疲れただろう」 「いえ、そんなんじゃなくて」 あわてて、アルフィンが首を振った。細い金髪が緩やかになびく。 「分かってる」 ガーベイが短く答えて腕を組み、ソファに上体をもたせかけた。 ふたりは盗聴を懸念して、なるべく必要最小限の会話しか交わさないことにしていた。重要なことは内耳に設置してある骨電動マイクで会話することにしている。 しかし、読み取られないように口元を隠しながら会話するのも不自然なので、いかんせん言葉数が少なくなっていた。 その時、突然アルフィンの耳に懐かしい声が響いた。 「アルフィン、聞こえるか?」 嬉しさのあまり思わず名前を口にしようとしたが、あわてて口元を手で押さえた。 うつむき、聞き取れないほどのかすかな声で話し出す。 「ジョウなの?今どこにいるの?」 「ステーション内に潜入している。さっきECMを破壊したので交信できるようになったが、そっちの部屋が電波遮断壁じゃなくてラッキーだったな。で、部屋はどこにある?」 ガーベイも同じ通信を聞けるようになっているので、じっとアルフィンの表情を伺っている。 「中央コントロール室と同じ階層よ。たぶん、地下二階。それより、ジョウ。面白い展開になってきたわよ。もうすぐ連合宇宙軍が、このステーションに臨検に入るわ」 「臨検?海賊が承諾したのか?」 「かなり怪しんでたけど、断って不審がられるのを嫌ったのね」 「はん、タロスが仕組んだな。そりゃ面白くなってきた」 「でしょ?」 アルフィンが会話している間に、ガーベイは部屋の中をうろつき始めた。部屋の何処かに隠してあるカメラモニタの注意をひくためだ。 「出来ればその臨検にタイミングを合わせて救出・脱出と行きたいとこだな。ここからアリエス達の部屋は近いらしい。家族を助け出してから、そっちに行く」 「了解。また連絡ちょうだい」 ジョウとクラウスはダクト配管の中を移動していた。 ステーション内への進入がバレてしまった今、通常のルートで移動するには危険が大きすぎる。 クリーン・ステーションは排気や汚臭の換気のため、内部には迷路のようにダクトが張りめぐらされていた。 ふたりは匍匐前進するように、両肘両膝を使って前へ進んでいた。 通常よりはやや大きめのダクトとはいえ、大人のジョウには狭すぎるダクトである。早速、上に突き出したバルブにジョウは頭をぶつけた。 「いっ」 「ジョウ兄さん、大丈夫?」 前をゆくクラウスが心配そうに振り返る。 「俺も10年前のサイズに戻りたいぜ」 ジョウが本気ともつかない調子でぼやいた。 「でも、そんなサイズになっちゃったら、このダクト孔まで昇れないよ?」 「……だな」 ふたりは顔を見合わせて笑った。 大体の内部地図を頭に叩き込んではいたが、ダクト内を移動しているうちに上下左右がよく分からなくなる。 ジョウは換気口を見つけては辺りを伺い、場所を確認していた。 「この通路さっき通ったよ!ここの真下がマム達が居るところだと思う」 「どこかに下層階に降りるダクトがある筈だ」 そのダクトは100メートルあまり進んだところにあった。ステーション内は0.6Gくらいの人口重力は効いているらしく、思ったよりも動きやすい。 「この階層であってるか?守衛のヤツがひとり立ってる」 ジョウと場所を交代してクラウスが通路を伺った。 「うん。あそこのドアに間違いないよ。さっきの海賊さんが戻ってきてる」 「じゃあ早速、救出作戦といこうぜ」 ジョウは手短にクラウスに作戦を説明した。 「あのー」 「あん?」 ドアの前にぼんやりと立っていた若い海賊は、いきなり話しかけられて驚いて下を見た。 なんと、部屋の中に監禁していた筈の少年が横に立っている。 「なんだ?おまえ、いつの間に出てきたんだ?」 「さっき、お兄さんがドクターを呼びに行ってた時に、部屋から出たら迷っちゃって。あの……ごめんなさい。中に入ってもいいですか?」 「ああ、早く入れ!」 海賊はあわててドアロックを操作して、扉を開けた。 「クラウス!」 部屋の中から、アリエスの声が響く。クラウスは中へ飛び込んだ。 「がっ」 次の瞬間、若い海賊が呻いて床に転がった。ジョウの手刀を首筋に受け、完全に気を失っている。 素早くジョウが部屋の中に入り、転がっている海賊から武器を取り上げた。 「ジョウ!?」 無事に戻ってきた息子をしっかりと抱きしめていたアリエスが、碧い瞳を大きく見開いている。 「アリエス、みんなも無事か?」 ジョウが立ち上がりながら顔を向けた時、アリエスが胸に飛び込んできた。 そして、自分よりも頭ひとつぶん以上大きいジョウを、細い腕で力いっぱい抱きしめる。 「ジョウ!こんなに大きくなって……」 「い、いや、アリエス。ちょっと、それは後……」 ジョウがしどろもどろになっているところに、追い討ちをかけるように姉妹達が飛び込んできた。 「わーい!ジョウ兄さん」 「やっぱり、助けに来てくれたのね!」 「お、おい」 女性達に抱きつかれてふらついているジョウに向かい、クラウスがおそるおそる声をかけた。 「あのう……この部屋から早く出ないと、海賊さんたちが来ちゃうと思うんだけど……」 「そーだわ!この部屋モニタされてンのよ!マム、早くジニーを連れてきて!」 抱きついていたキャサリンがキビキビと母親に指示し、ジョウを見上げた。 「ジョウ兄さん、あたしいちばん上の姉のキャサリンよ!よろしく。それで?脱出作戦はどーなってるの?」 「あ、ああ……。とにかくこの部屋から出て最下層のクリーン・ブロックへ降りる」 「オッケイ。サラ、ジーナ上着を着て、早く用意するのよ!」 間髪入れず妹たちに指図するキャサリンを眺めながら、ジョウがぼやいた。 「……聞きしに勝る、姉貴だな」 「でしょ?」 クラウスが苦笑しながら、ジョウを見上げた。 「こっちの階段の方が、近いの!」 幼いジーナが舌足らずな口調で叫んだ。 「本当か?」 「ジーナの記憶力は抜群よ。さっきコンピュータからステーション内の地図を調べといたの」 走りながら、キャサリンがジョウに説明した。 「頼りになるぜ。俺が先頭を行くからジーナ、ナビしてくれ」 「あたしが、しんがりを行くわ。武器をもらえる?」 「使えるのか?」 「クラッシャーの養成スクール行ってンのよ!」 「……だったな。気をつけて使え、海賊は容赦なく撃っていい」 ジョウがキャサリンに小型のレイガンを渡した。 「ガーベイ達は何処にいるの?」 アリエスがジーナを抱いて走りながら、息を切らせて訊いてきた。 「二階層上の部屋に監禁されてるらしい。しかし、この人数で助けに行くわけにはいかないので、あんたたちは先にクリーン・ブロックへ隠れててもらう。ECMを切ってきたので、ガーベイ達と連絡はできる」 うまく海賊たちとは遭遇せずに最下層のクリーン・ブロックへたどり着いた。タロスが仕組んだ臨検騒ぎで海賊達が浮き足立っているのが幸いしたのだろう。 ステーションのコア(中心)に位置するクリーン・ブロックは巨大な空間であった。 外層にあるポートに入ってきた廃棄物運搬船から降ろされた廃棄物は、コンベアーによって下層へと運ばれてゆく。途中色々なリサイクル条件・項目ごとに分別され、再利用不可の廃棄物は最後にコア部分にある溶鉱炉へと集められ、高熱溶解処理されてゆくのだ。 空間に幾筋も延びるコンベアには、併走してカート・ルートが設けられていた。点検・修理の他にコンベアでは運搬不可な廃棄物を運ぶためであろう。 所々に設けられたカート待機所には数台のカートが停車されていた。前方は二人が座れる運転シートが設けてあり、後方には大きめの荷台が付いている。 ジョウは一台だけ離れて駐車しているカートを選んで近づいた。 「このカートの中に隠れてるんだ。荷台の壁が深いのでしゃがんでいれば、見つかりにくい。念のため、シートをかけておいてくれ」 すぐに双子の妹は荷台に飛び込んでシートの下ではしゃぎはじめる。 「クラウス、今度は姉貴と協力して家族を守るんだ」 ジョウは海賊から取り上げた武器をクラウスに渡し、使い方を簡単に説明した。 隣でその説明を一緒に聞いていたキャサリンが、ふと顔を上げて訊いた。 「ね、ジョウ兄さん?クラッシャーの周波数に合わせておけば、連絡はとれる?」 「ああ、何かあったら連絡をくれ。すぐにダッド達を連れて戻ってくる」 「ジョウ、どうか気をつけて。ガーベイをよろしくね」 アリエスが荷台から心配そうに身を乗り出している。 「わかってる」 ジョウは軽く手をあげてそれに応え、踵を返して走り出した。 |
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