碧と紅  〜Happy Birthday to Alfin 2019 〜



━━この「碧(あお)」を初めて見たのは、いつのことだったろう?



自分を真っ直ぐに見つめる、その碧い瞳の魔力に全身が絡めとられる。

地面を踏みしめる両脚も、ポケットにつっこんだ両手も

その先の指の一本さえ、動かせない。


 あれは・・・救出した君がミネルバのメディカルルームで目覚めた時か?

 いいや、違う。 もっと・・・前の話だ。

 怪我をしたガキの俺を介抱してくれた・・・アリエスの碧い瞳?

 ━━ 違う。そうじゃない。


思考さえも、ぼんやりとしてきた頭の片隅で。

俺は何度も・・・その問いかけを繰り返していた。



「どうしたの?」


目の前に立つ君は・・・その碧い視線を外さぬまま、問いかける。
いつ聞いても、耳に心地よい声。

爽やかな風が前髪を揺らすように。
柔らかな日差しが頬をなぶるように。

思わず・・・口角が上がる。



━━ ああ、そうだ。  

あの「碧(あお)」は  
・・・・・・想い出した。  


俺がクラッシャーになるために、宇宙に出た時。
生まれ育った惑星アラミスを

初めて、宇宙から眺めた。

青く広がる海洋と、緑に覆われた大陸
白い雲が大気にマーブルの模様を描いていた。

人類の故郷、テラ(地球)にも負けない美しい星だと
「碧い宝玉」だと、自慢していたのは・・・ガンビーノだったか。

初めての宇宙でワクワクしていて
嬉しさで、はちきれそうだったのに。

もう当分、戻ることもない。
そう意気込んで、宇宙に出て来たのに。

どんどん自分から遠ざかる、その「碧い宝玉」を
宇宙船の小さな窓から眺めていたら。

いつの間にか・・・涙が頬を伝っていた。

誰にも気づかれないように
すぐに手で拭ったけれど。


━━あれを・・・「郷愁」というのだろうか。


その宝玉は、俺の故郷、母なる惑星は
だんだん、だんだん・・・小さくなって。

どんなにか離れてしまったのだろう。
俺は・・・いったい、何処まで来てしまったのだろう。


「ジョウ。どうしたの?」   


いぶかしげな響きを含んだ声が、俺の耳朶を優しく打った。

我に返った俺は
目の前に彼女が居るのを初めて知ったかのように何度か瞬きをして
その碧い瞳を、まじまじと見つめ返した。


━━ そして     
突然、悟った。  

違う。離れてしまったワケではない。

俺は故郷から遠く離れて・・・

宇宙の何処かを彷徨(さまよ)っているワケでもない。


━━ ここに。   

こんな近くに・・・大切な「碧」が

美しい海と、緑の大地
自分を慈しみ、やさしく護ってくれた

あの「碧い宝玉」は・・・変わらぬ美しさで

こんなにも、近くにあった。


その時、一陣の風が吹いて
彼女の長い金の髪をなびかせた。

ちらり、と覗いた形の良い耳には
紅玉の石が輝いている。


「似合うよ、ピアス」   


俺が・・・初めて贈ったものだった。


誕生石がガーネットという紅玉だと知ったのは
彼女が以前持っていたピアスを片方、失くしてしまってからだった。

そのひとつだけになったピアスを
小さな友達にネックレスに仕立ててあげていた。

けれど彼女はすこし・・・寂しそうだった。


俺は柄にもない、と思いながらも
もう一度、あのピアスをした彼女を見たくて。


「嬉しい」   
     

彼女は、そこにあるのを確かめるように
そっと、その細い指でピアスに触れた。

「何が?似合うって言われたのが?」

「・・・・・・全部よ」    

彼女は、ふっとその金の睫毛をふせた。
碧い宝玉が、隠れてしまった。

「私があのピアスを失くしたのを覚えていてくれたことも
この石を、また選んでくれたことも
プレゼントしてくれたことも」

彼女は耳に触れていた細い指を、胸元に下した。

「そして…似合うよ、って・・・今、言ってくれたことも」

碧い宝玉が、ふたたび真っ直ぐに俺を見る。


「全部、嬉しい」     

「そんなこと、いつでも・・・言ってやるよ」


━━だから
いつまでも、俺の傍に居てくれ。

そしていつまでも、その碧い宝玉の魔力で
俺を、がんじ絡めにしておいて欲しい。


・・・・・・心が、けして
宇宙の闇に彷徨わないように。



Fin...    





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